インド経済のみならずグローバル経済でも躍進を続ける商業集団マールワーリーは、故郷ラージャスターン州でヒンドゥー寺院運営に関与してきた。平成27年度、私はインドにおける寺院政策の特徴を明らかにし、この政策の影響下でマールワーリーによる寺院運営がいかに変容したのかを明らかにした。『南アジア研究』に掲載される調査結果の概要は以下の通りである。 本研究の調査対象はラージャスターン州でマールワーリーにより運営されるラーニー・サティー寺院(以下R寺院)である。私は19世紀後半から整備された英領インド期の寺院規制を明らかにした。端的には「公益慈善目的」として宗教的・慈善的な活動が規定され、寺院は「公共財」として政府に管理されるようになったのだ。一方マールワーリーはこの新制度から経済的なうまみを見つけ出し、例えばR寺院建立のため1912年に設立された義捐基金に多くのマールワーリーが参加した。なぜなら彼らは基金参加で得る所得税控除、そして基金の受益者が委託者と同じ親族でも認可される点に気づき、委託者/受託者になることで限られた縁者の経済的利益のための基金運用を実現した。 しかし信託基金への参加で彼らもまた「公共への責務」を背負わざるを得なくなった。特に1947年インドが独立すると、新政府は寺院はより社会一般に開かれた運営にシフトしなければ所得税控除を得ることができないと改正した。これに従いR寺院の運営者たちは、1957年カルカッタに運営団体を設立し、より公共のための寺院運営に方向転換した。まず寺院の財を適切に使用するために、宗教的職能者を雇用し、儀礼環境を整備した。また寺院名義での慈善活動も必須となったために、教育・医療にかかわる公共的な施設を運営し、市民のための文化イベントを定期的に実施した。このようにしてR寺院は「宗教的・慈善的な公益活動」の拠点になっていったのである。
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