研究課題/領域番号 |
13J08721
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研究機関 | 国際基督教大学 |
研究代表者 |
柴田 真希都 国際基督教大学, キリスト教と文化研究所, 研究員
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キーワード | 知識人 / 明治 / 公共性 / 近代 / 内村鑑三 / 中江兆民 / 共和主義 / キリスト教 |
研究概要 |
本年度は所記の研究課題に関して、主に二つの方向性からの研究を進めた。一つ目は知識人論やそれに準じるテキストにおいて、公共的人間の責務と規範をめぐる議論を資料として集めながら、近代という歴史的時代に、現実の政治現象に対峙する姿勢を問う理論的枠組みとして援用するにふさわしい言説を選定することである。二つ目は、その理論的言説を背景や補助線としながら、明治の知識人の具体的な言行とその意味するところを明らかにすることである。 一つ目に関して言えば、従来から読み進めているE・W・サイードとJ・バンダのものに加え、本年度はJ=P・サルトルの知識人論、丸山真男とM・ヴェーバーにおける学者職分論と政治的なるものへの考察、あるいはR・N・ベラーとA・トクヴィルらによる民主主義下における公共性をめぐる議論などが参照され、近代という時代に、特定の専門性とパースペクティブをもった「知識人」に期待される規範性や責務についての考察を深めた。その成果の一部をもって、日本近代において少なからぬ役割を担ったキリスト教系知識人の境位に関する研究成果を一部まとめ、学会発表において公表した。 二つ目に関して言えば、従来からの関心の対象であった内村鑑三を中心に、彼と福澤諭吉、あるいは自由民権運動の線を結ぶものとして〈自由・独立・個〉という概念の組み合わせを設定し、それら近代に普遍的な概念の相関的な把握がどのようになされていたのかの一例を整理し、論文として発表した。 また、自由民権運動の知識人の中でも、とくに中江兆民に注目し、その普遍主義的な公共的価値の擁護者としての側面を「共和主義」という鍵概念を核に、内村鑑三との比較研究という方法により検討し、学会で発表した。「共和主義」という点では、従来未開拓であった内村鑑三のそれについてのみ、彼の「反政治的」志向との関わりを探った論考を先にまとめ、学会誌に発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
理論的な研究は順調に進んでおり、それを用いた事例研究もいくつか形になって公表できたので、研究自体は着実に進展していると認識している。対象としている福沢諭吉と徳富蘇峰に関するまとまった論考の整理にまでは至らなかった一方、中江兆民や木下尚枝に関する論考を一部まとめるなど、研究の流れからくる計画の先後の組み換えなどがあったが、25年度にできなかった分は26年度以降に行うことでそれを補えると考える。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き所記の研究課題に関して、理論研究と事例研究の二つの方向性からの研究を進めることを目標とする。理論研究としては近代における知識人の職責の問題をめぐり、引き続き丸山真男とM・ヴェーバーの論考を読み進め、一方で、トクヴィル、ベラーらの近代民主主義社会をめぐる議論に、新たにR・ニーバーの時代分析と反・啓蒙主義的人間社会論を接続しつつ考察を深める。 事例研究としては、従来から取り組んでいる内村鑑三、福沢諭吉、徳富蘇峰に関するテキスト分析を一層充実させるとともに、明治中期に花開いた国粋主義の思想家(具体的には陸羯南、三宅雪嶺、志賀重昴)の面々を比較対照として加えることで、明治期における近代西洋由来の普遍的諸価値をめぐる議論、さらにはそこに根付いた形での政治への姿勢や政治参加をめぐる言説を集めて整理・検討する。
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