研究課題/領域番号 |
13J08747
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
西口 雄基 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 抑うつ / 認知バイアス / 注意 |
研究概要 |
平成25年度の実験では、抑うつ的な個人においてみられると考えられる注意資源のネガティブ刺激への偏った配分を観察するため、Digit-parity課題を用いた実験を行った。Digit-parity課題は注意焦点の範囲を観測するための課題であり、注意資源の偏りは注意焦点の範囲の狭小化として見られると考えられる。 近年の研究では、抑うつ的個人においてみられるネガティブ刺激への偏った注意(注意バイアス)の観察例が数多く報告されている。こうした注意バイアスはネガティブな情報への注意を促進することでネガティブ気分をさらに強化してしまう働きがあると考えられており、注意バイアスの修正を行うことが、抑うつの治療・予防につながるのではないかと議論されている。一方で、注意バイアスの生じるメカニズムについては、未だに詳細な解明がなされていない部分も多い。多くの研究で用いられてきたDot-probe課題では、抑うつ的個人がネガティブな刺激に注意を向けた際に、ネガティブ刺激提示位置以外の場所にターゲットが提示された際に反応が遅延する現象がしばしば報告されている。一方で、こうした現象が生じる原因が注意のコントロール能力の低下(Orienting機能の低下)なのか、ネガティブ刺激への注意の集中により、ネガティブ刺激提示位置以外の刺激が処理されなくなってしまうからであるのか、未だに検証した例がない。本研究ではDigit-parity課題を利用し、抑うつ的な参加者がネガティブ刺激提示時にどの程度の範囲に注意を向けているのかを測定することで、抑うつ的個人においてネガティブ刺激への注意の集中が生じているかどうか検証した。 Digit-parity課題を用いた実験の結果から、抑うつ的な参加者に対してネガティブ刺激を提示した場合、注意の範囲が狭くなっている可能性が示唆された。近年の研究において抑うつ的個人において注意バイアスの生じる原因は、Orienting機能の低下であるという議論が主になされてきているが、本研究の結果から、ネガティブ刺激位置に注意が集中してしまうという現象がその原因である可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
昨年度は主に、Digit-parity抑うつ的な個人における注意バイアスの計測を行ったが、先行研究の数が少ない分野であるため、実験課題自体の調整に時間が必要であることが予測された。しかしながら昨年度はDigit-parity課題で抑うつ的注意バイアスを観察できただけでなく、追加実験の考案、実施にまで至ることができ、予想以上の進展が見られた。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の研究により、抑うつ的な個人にネガティブな刺激を提示した場合は注意焦点の範囲が狭くなる現象が生じることが分かった。これを観察した時点で当初の目的は達成できたが、類似した研究が他にないため、追加実験によりこの注意バイアスの記憶への影響、別の刺激を提示した場合の注意バイアスの変化などを検証する必要があると考えられる。そこで、平成26年度も追加実験による検証を続行し、並行して当初予定されていた研究も進めることとする。
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