研究課題/領域番号 |
13J08756
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
孫 雲龍 東京工業大学, 大学院総合理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | 神経伝達物質 / アドレナリン / 分子認識 / 水のクラスター / コンフォーマ |
研究概要 |
神経伝達物質はそれぞれ固有のレセプタータンパク質に特異的に水素結合することによって分子認識される。神経伝達物質は複数の単結合をもつ分子であるため多数のコンフォメーションを取り得るフレキシブルな分子であり、上述のような水素結合を形成する際に何らかの構造変化を伴う可能性がある。また、周りに存在する水分子もその構造に大きく影響すると考えられる。この様な分子認識過程を理解する上で、まず神経伝達物質がどのような構造を取るのかを解明する必要がある。本研究ではアドレナリン及びその水クラスターに気相レーザー分光法を適用し、それらのコンフォメーションを調べた。 アドレナリン単体では、ホールバーニング分光法により4つのコンフォマーが共存することが分かった。それぞれの構造を赤外分光法及び量子化学計算により決定した。一方、アドレナリン類似分子であるフェニレフリンは、フェノールOH基の数がアドレナリンより1個少ないにも関わらず、12個のコンフォマーが観測されている。フェノールOH基の配向を考慮するとアドレナリンでもフェニレフリンと同数のコンフォマーが観測されるはずであり、4つしか観測されなかったことは驚くべき結果である。それぞれの分子で各コンフォマーの相対的エネルギーを計算したところ、両者でその傾向に差はほとんどなく、観測されるコンフォマー数の差をコンフォマーの安定性(平衡論)で説明できないことが分かった。これを説明する1つの仮説として、アドレナリンは速度論的にコンフォマー変換を起こしやすい、即ち、他の類似分子に比べてよりフレキシブルであるため、観測されるコンフォマーが少ない、と考えている。 アドレナリン水クラスターでも同様の測定をした結果、主に2つのコンフォマーが共存しており、それらは水分子の水素結合位置が異なるだけで、アドレナリン本体の構造は共通であることが分かった。水分子付加によりさらにコンフォマー数が減少したことは、単量体同様、平衡論では説明できず、上述の仮説に基づいて、水分子の付加により分子の柔軟性が増すのではないかと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
受容体との錯合体の研究は現在進行中であるが、神経伝達物質自体の本質的特性と水分子の役割についての分子論的理解が深まった。
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今後の研究の推進方策 |
神経伝達物質とその受容体の部分ペプチドを直接結合させ、その構造を気相分光法及び量子化学計算により決定する。
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