植物の汁液のみを利用する昆虫では、体内に宿す共生微生物が自身の成長や繁殖にとって不可欠な存在となっている。このような昆虫-微生物共生系では、季節的に訪れる寒さや暑さ、乾燥などの環境ストレスに対して、両者が耐えぬく必要がある。そこで、本研究では、マルカメムシやチャバネアオカメムシなどのカメムシ目昆虫とその腸内共生微生物をモデル系として、1)昆虫-微生物共生体の適応できる温度域を制限しているのはどちらか、また、2)厳しい季節を共に生き抜くための相互作用はみられるかについて調査を進めている。 本年度は、まず、マルカメムシと腸内共生細菌Iの共生系を用いて、栄養相互作用の解析を進めた。その結果、共生細菌が餌中に不足する必須アミノ酸やビタミンを宿主に供給していることを明らかにした。このことはゲノムから推測された共生細菌の栄養素補完機能を栄養生理学的に証明し、どのようなメカニズムで共生細菌が宿主昆虫にとって必須であるかを明らかにした。今後は、季節的にこのような栄養相互作用がどのように変化していくかを観察する予定である。 また、チャバネアオカメムシと腸内共生細菌を用いて高温ストレスによる反応を観察したところ、36℃5日間の高温処理によって共生細菌が消失することが観察された。このことは、共生細菌が昆虫の温暖地域への適応に対して律速となっていることが示唆している。 昆虫は冬季や夏季などの不適な季節に休眠という特殊な生理状態にはいるが、休眠時の共生状態の変化についてはまったく未解決のままである。そこで、RNAseqを用いて、共休眠と非休眠昆虫における共生器官において発現する遺伝子の比較解析を進めている。今年度は、ライブラリ作成から、シークエンシング、de novoアセンブリング、アノテーションまで行った。次年度は発現レベルに差のあった遺伝子の詳細な機能解明を進める予定である。
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