研究課題
本研究では、昆虫-微生物共生系に見られる協調的な季節適応の生理機構を解明し、両種間の相互作用が進化した道筋を理解することを目的とする。本年度は、カメムシ類を対象として、下記に示す課題を進めた。1)温帯に生息する昆虫の多くは休眠という特殊な生理状態にはいることで越冬に備える。そこで、チャバネアオカメムシ中腸共生器官において、休眠にともなって発現変動する遺伝子の網羅的解析をRNAseqによりおこなった。その結果、共生細菌の生理状態の変化や、宿主による制御機構が明らかとなった。2)近年、共生細菌のゲノム解析や宿主昆虫の共生器官のトランスクリプトーム解析から、共生の栄養相互作用の存在について推測されているが、その詳細な機構を実証した例は少ない。そこで、クロカタゾウムシやトコジラミを用いて、共生器官の具体的なアミノ酸供給機能やビタミンB群供給機能を栄養生理学的に実証した。3)クヌギカメムシは晩秋に産卵し、厳冬期に幼虫が孵化するという特殊な生活史をもつ。卵塊には多量のゼリー状物質が塗られており、孵化した幼虫がそのゼリーを摂食して春の芽吹きの時期までに3齢幼虫へと成長する。また、このゼリー状物質は共生細菌を含んでおり、次世代へ共生微生物を伝播する役割も担う。そこで、この共生細菌伝達物質の化学構造および栄養的側面に着目し、構成成分の解析をおこなった。あわせて、この物質を産生する器官のRNAseqをおこない、その栄養学的・化学的・生理学的機能を明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
チャバネアオカメムシを用いてすすめている、休眠時における共生細菌との相互作用の変化についての解析は予定よりもやや遅れているが、昆虫と共生微生物の季節適応を明らかにする中で副次的に重要な生物機能が発見され、予定よりも大きな成果をあげることができた。そのため、全体としては、おおむね順調に進んでいると言える。
今年度は以下の項目を中心に研究をすすめる。①. 宿主昆虫による共生細菌の制御機構:これまで進めてきたRNAseqの結果から絞り込まれた休眠特異的に発現する中腸共生器官の注目すべき遺伝子について、RNAiによって機能解析をおこない、細菌を制御する具体的な分子経路を明らかにする。②共生細菌の宿主への役割:休眠誘導直前に高温ショックや抗生物質処理によって共生細菌を除去した個体において、宿主の休眠現象の有無と、越冬生存率について調べる。また、上記の機能解析から、共生細菌の休眠操作に重要と思われる遺伝子を特定した後に、実際に宿主適応度への効果を観察する。③温度耐性の地理的変異:国内の複数地点においてチャバネアオカメムシを採集し、宿主昆虫および共生細菌双方の温度耐性と地理的変異の存在を調べる。さらに共生細菌交換実験をおこなうことで、低温または高温域への適応の律速となるのが宿主昆虫および共生細菌のどちらかを特定するとともに、双方の温度耐性に影響する相互作用が存在するかどうかを明らかにする。④研究成果の発表:国内外の学会に参加し、これまでに得られた成果の発表をおこなう。また、順次、論文を作成し、成果を科学雑誌に発表する。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 1件)
Applied Entomology and Zoology
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