高レベル放射性廃棄物処理のためのガラス溶融炉内流動に代表される過酷環境流動に対応する計測技術を実現するために、パルス超音波を用いた超音波流速分布計測(UVP)法の応用開発を行い、以下の知見を得た。 1.1000℃を超える溶融ガラスに対してUVP法を適用する際には、導波棒技術が必要となる。導波棒とは超音波センサと溶融ガラスの間で温度緩衝材および音響経路となるが、同時に遅れエコーと呼ばれる内部反射による計測雑音の問題が知られている。遅れエコーを低減させた導波棒を本研究では使用しているが、溶融ガラス中における流動を計測する際には溶融ガラスの高粘度に起因する高い音響減衰率の影響も重なり、従来以上の高い耐雑音性能を有する流速分布算出アルゴリズムが求められる。そこで、本研究では広帯域位相差分法を提案した。本手法により、導波棒内遅れエコー由来の雑音を低減することに成功した、1100℃の溶融ガラス内に設置したジルコニア球の挙動をリアルタイム計測することで、溶融ガラスに対する流動計測が可能であることを示した。 2.開発した計測システムを用いてスイス連邦工科大学チューリッヒ校において溶融塩内における気泡挙動の計測実験を行った。その中で、気泡挙動を可視化するための特殊な信号処理手法として、時系列フレーム差分フィルタと適応型振幅フィルタを開発し、比較的雑音が多い環境下においても気泡の挙動を抽出することに成功した。 3.フェイズドアレイ技術を用いたベクトルUVP法を開発した。開発した技術を用いて垂直円管内旋回気泡流を計測し、旋回流誘起部後の旋回流の挙動について従来手法では困難であった円管断面方向に関する非侵襲計測を行った。同時に本体系を数値流体シミュレーションによって解析し、実験結果と計算結果の比較を行い、旋回流誘起部の影響について明らかにした上で、計測結果の妥当性を示した。
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