研究課題
本研究では神経新生が関与する生後の脳発達が、生後の行動の発達に寄与するかどうかを調べることが目的である。分子遺伝学のモデル動物であるメダカを用い、終脳において社会性行動の発達に必要な神経新生領域を同定する。これまでに申請者は、メダカ成魚の終脳において、発生初期の同一神経幹細胞由来の新生ニューロン集団が空間的に区画化され、新生ニューロンの細胞系譜単位(クローナルユニット)が存在することを明らかにした。本研究ではメダカの社会性行動の発達に必須な新生ニューロン群を細胞系譜単位で同定することを目標としている。本年度はメダカ終脳の新生ニューロンにおいて任意の細胞系譜単位で遺伝子組み換えを誘導する実験系を確立した。熱刺激依存的に遺伝子発現を修飾できる遺伝子改変メダカに対して赤外線レーザーを照射することで、非侵襲的かつ局所的にメダカ終脳で遺伝子発現修飾を誘導することが可能になった(IR-LEGO(InfraRed Laser Evoked Gene Operation)法)。発生初期段階に誘導することで1~数個の神経幹細胞由来に発生した新生ニューロン群、すなわち細胞系譜単位を可視化した。 メダカ胚は透明であり、予定脳領域の任意の微小領域にレーザーを照射することが可能で、本手法により終脳に存在するほぼ全ての細胞系譜単位を同定できると考えている。本手法による Cre/loxP 遺伝子組換えに関する研究成果は PLoS One, 8:e66597 (2013) に掲載された。現在、IR-LEGO法により終脳の細胞系譜単位を網羅的に解析する方法の確立中である。さらに新生ニューロンで神経興奮を抑制する遺伝子改変メダカを作出中である。IR-LEGO法によって部分的に神経新生を抑制した個体を作成し社会行動異常を検出することにより、社会性行動発達に必要な新生ニューロンの細胞系譜単位を同定する予定である。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、神経新生の社会性行動の発達への寄与を調べる目的でメダカの終脳に着目した。遺伝子改変メダカの作成により終脳において新生する神経細胞を特異的に可視化して解析を行なった。分子遺伝学的手法により少数の神経幹細胞由来の新生ニューロン群(クローナルユニット)の可視化をランダムに行なったところ、メダカ成魚終脳のなかで区画化した構造を構築していることを発見した。メダカやゼブラフィッシュ等の硬骨魚類のモデル動物はこれまで発生学の観点から多くの研究がなされてきたが、成魚を用いた神経新生という観点での終脳の構造解析はこれが初めてである。より詳細な解析を行なうために、基礎生物学研究所との共同研究により効率的にかつ大量にクローナルユニットの解析を進めることが可能になった。現在解析を進めている。また、上記の発見から、発生時に存在する神経幹細胞のトポロジーと成魚脳の終脳のクローナルユニットの関係性を調べることの重要性が見いだされた。申請者は基礎生物学研究所との共同研究により、赤外線レーザーを用いることで発生時の神経幹細胞を領域特異的に遺伝子発現修飾する系を確立した。その結果、特定のクローナルユニットの可視化ができるようになった。本研究による研究成果はPLoS One, 8:e66597 (2013) に掲載された。
メダカ終脳がいくつのクローナルユニットから成るのか、またクローナルユニットがどのような構造を終脳内で構築しているのかを調べる目的で、可視化されたクローナルユニットを大量に解析する。熱刺激依存的にクローナルユニットが可視化される遺伝子改変メダカを用いて、ランダムにクローナルユニットを可視化したサンプルを大量に作成し、基礎生物学研究所との共同研究で解析を進める。また、複数のサンプル間でクローナルユニットの位置を比較する目的で、標準脳へのレジストレーションという方法をすすめる。本方法はショウジョウバエのクローナルユニット構造解析で用いられた方法である。本方法を成魚の脳で用いる例は初めてである。また同時に、社会性行動発達に寄与するクローナルユニットの同定を行なう目的で、終脳の新生ニューロンで部分的に神経興奮が抑制される遺伝子改変メダカを作成する。本年度に確立した、赤外線レーザーを用いた遺伝子発現修飾法(IR-LEGO法)と組み合わせることで領域特異的に神経興奮を抑制した遺伝子改変メダカを大量に作成する。所属研究室にて既に多くの社会性行動アッセイ系が確立されているので、複数のアッセイ系でスクリーニングを行ない、社会性行動の発達に重要な神経新生領域、クローナルユニットの同定を行なう。
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Science
巻: 343 ページ: 91-94
10.1126/science.1244724
PLoS One.
巻: 8 ページ: e66597.
doi: 10.1371/journal.pone.0066597