研究課題/領域番号 |
13J08781
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
磯江 泰子 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2013-04-26 – 2016-03-31
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キーワード | 神経新生 / 細胞系譜 / 硬骨魚類 / メダカ / 終脳 |
研究実績の概要 |
脳神経回路の基礎的な神経回路構造は発生プログラムに従い発生過程で構築される。生後にも神経回路に神経細胞が供給され(神経新生)脳は発達する。マウスでは神経新生領域が嗅球と海馬に限局され、嗅覚による性行動を含む社会性行動や記憶学習に神経新生が寄与することが報告されている。しかし新生ニューロンが社会性行動の発達に寄与する機構は不明である。また、他の脊椎動物(魚類、鳥類、は虫類)の神経新生領域数は哺乳類に比べて多いが、機能についてはほとんど不明である。本研究では、社会性行動に神経新生が関与しているか、またどの神経新生領域が重要なのかを明らかにする目的で、硬骨魚類メダカの終脳に着目した。メダカは視覚を介した社会性行動を示し、生涯を通して神経新生が生じる。加えて、遺伝子発現解析の研究から、種間で共通する社会的な意思決定回路が硬骨魚類の終脳に保存されてことが報告されている。そこで本研究ではメダカ終脳の神経新生に着目した。 これまでに、遺伝子改変メダカを用いることで発生初期の同一の神経幹細胞に由来する新生ニューロン集団(クローナルユニット)の可視化を成魚脳で行なったところ、可視化されたクローナルユニットは区画化した構造を構築していたことを明らかにした。さらに終脳におけるクローナルユニットの構造を詳細に解析するために、クローナルユニットをモザイク的に可視化した遺伝子改変メダカを大量に作成、脳の透明化、そして基礎生物学研究所にて光シート顕微鏡を用いて解析を行なった。その結果、、解剖学的領域が1ないし2~3のクローナルユニットから構築されることを明らかにした。脊椎動物の中枢神経系のクローナルユニットが脳構造を区画化していることを明らかにしたのは世界でも初めてである。加えて、昨年度確立した、領域特異的に遺伝子発現修飾可能な IR-LEGO 法をさらに改善し、神経幹細胞のマッピングを行なっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、神経新生の社会性行動の発達への寄与を調べる目的でメダカの終脳に着目した。遺伝子改変メダカの作成により終脳において新生する神経細胞を特異的に可視化して解析を行なった。分子遺伝学的手法により少数の神経幹細胞由来の新生ニューロン群(クローナルユニット)の可視化をランダムに行なったところ、メダカ成魚終脳のなかで区画化した構造を構築していることを発見した。メダカやゼブラフィッシュ等の硬骨魚類のモデル動物はこれまで発生学の観点から多くの研究がなされてきたが、成魚を用いた神経新生という観点での終脳の構造解析はこれが初めてである。より詳細な解析を行なうために、基礎生物学研究所との共同研究により効率的にかつ大量にクローナルユニットの解析を進めることが可能になった。その結果、現在60個体ほど成魚脳の解析を終えている。また近年ショウジョウバエ研究にて開発された、標準脳に対する蛍光シグナルのマッピングの技術を応用することで、メダカの終脳においても新生ニューロンのクローナルユニットの詳細なマッピングを進めることができた。加えて、脳発達の行動の発達への寄与を調べる上で必要な社会性行動アッセイ系を確立するために、メダカの視覚依存的な行動アッセイ系の確立も行なった。同種・異種間を認識し、近付く、あるいは遠のく行動を定量化する。一匹単位でアッセイすることが可能なので今後のスクリーニングで大変有用だと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
行動発達に重要な脳領域を探索する目的で、主に2つの方策を実施する。ひとつは神経興奮を部分的に抑制することで機能解析を進める方法で、2つめは社会性行動の神経興奮を可視化してマッピングする方法である。 これまでに確立した、領域特異的に遺伝子発現を修飾する方法と組み合わせることで特定の新生ニューロンの神経興奮を抑制する遺伝子改変メダカを大量に作出する。メダカは1ペアから毎日数十個の卵を産むので、大量に解析を進める上で最適である。2014年度に確立したアッセイ系を用いることでスクリーニングを進める予定である。 同時に、神経糸興奮を可視化する遺伝子改変メダカの作出を行なう。
現在、クローナルユニット単位で新生ニューロンの神経興奮を抑制する遺伝子改変メダカを作成中である。筆者が在籍している研究室内では性成熟依存的に行なわれる視覚依存的な社会性行動アッセイ系も確立されているので、終脳の一部のクローナルユニットの機能を欠損されたメダカで様々な社会性行動アッセイ系を行ない、メダカ終脳のクローナルユニットの機能マッピングを行なう。
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