電子は電荷の自由度を持つと同時にスピン自由度を持ち、これらは結合している。したがって、電荷の自由度を操作し電子構造を制御するバンドエンジニアリングは、スピンに由来する磁性をも制御可能であることが期待される。本研究では、強磁性半導体GaMnAsを電極にしたトンネル接合素子において、量子サイズ効果によって価電子帯の正孔の波動関数を変調しながら、トンネル輸送特性の磁化方向依存性を測定した。トンネル接合は、分子線エピタキシー法を用いて作製した。GaMnAsの膜厚に傾斜をつけることで、同一のウェーハー上に井戸幅の異なるトンネル接合素子の列を作製し、量子サイズ効果が素子ごとに異なるようにした。外部から磁場を印加し、印加する方向を変えることで磁化方向を制御した。トンネルコンダクタンスの磁化方向依存性を測定した結果、その対称性が井戸幅によって異なることが分かった。井戸幅が広く、量子サイズ効果が生じない場合におけるトンネルコンダクタンスの磁化方向依存性は、二回対称であった。井戸幅が狭く、量子サイズ効果が生じる場合は、四回対称であった。これらの結果が示していることは、量子サイズ効果を利用してバンド構造および波動関数という電子の電荷の性質をエンジニアリングすることで、トンネルコンダクタンスの磁化方向依存性という磁気的な性質を変化させることが出来るということである。磁性材料の組成を変える従来の方法とは異なり、組成を変えずに電子構造を変えることによって磁性を設計するという新しい方法の確立が期待される。この方法は、次世代機能性スピンデバイスの実現に繋がる。
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