研究概要 |
近年, スピントロニクスで培われてきたスピン流に関する基本的な枠組みを熱的な現象まで拡張することを目的としたスピンカロリトロニクスと呼ばれる研究領域が急速な進展を見せている. 申請者はこれまでに, 強磁性体/常磁性体接合におけるスピン流の生成・検出に関する研究に取り組んできた. 本年度はスピンホール効果を介して発現する「スピンホール磁気抵抗効果」と呼ばれる新しい現象を発見し, これを報告した. この現象は強磁性絶縁体/常磁性金属複合膜において, 常磁性金属層に生じる異方的な磁気抵抗効果であり, 簡便な輸送測定から常磁性層のスピン流一電流変換効率やスピン拡散長といったパラメタの決定が可能となる. 我々は更に, 電界効果誘起強磁性相転移現象を用いた新奇な現象を探求する取り組みをスタートさせた. 磁性体の磁化は通常, 外部磁界や電流によって制御される. 近年, 電界印加による物質のキャリア変調法が省エネルギーの観点から注目されており, 多種多様な物性の変調が実現されている. これらの研究を基に, 申請者は電界によるキャリア変調手法を外部磁界印加下の磁性体に応用し, 電界による強磁性相転移現象を引き起こすことで, 磁気熱量効果の電界制御という新しい物質機能を引き出せるのではないかと考えた. このような現象が実現すれば, 新しいタイプの省エネルギー熱デバイスの構築が可能となるとともに, スピンカロリトロニクスにおける基礎研究に対して新たな知見を与えることが期待される. 特別研究員初年度に当たる平成25年度は, 強磁性体を用いた試料の作製・評価とその解析, 実験系の構築に取り組むとともに, 二年目の研究に向けた予備実験を行ってきた. これ迄に強磁性金属/強磁性半導体の新しい磁性積層構造においてスピンポンピングと逆スピンホール効果の観測に成功している. 本年度得られた知見を活かし, 来年度は磁気熱量効果の観測を行う予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り, 電界によって誘起される磁気熱量効果の観測に向けた強磁性超薄膜試料作成・評価・解析および測定系の構築を行ってきた. その結果, 良好な膜質の磁性薄膜を得ることができており, 来年度の研究に向けた予備実験を遂行することでデータを蓄積することができた. 以上のことから, 研究は計画通り進められている.
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今後の研究の推進方策 |
本年度, 強磁性半導体および強磁性金属の超薄膜における電界誘起効果の観測に向けた試料および測定系の準備を行ってきたが, 来年度はこれまでに予備実験で得られた知見を生かし, 電界による磁気熱用効果の本格的な測定に取り組む. もし必要があれば更に材料探索を行い, 電界効果により誘起される磁気熱量効果の測定に最適な物質群を調べる.
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