研究課題/領域番号 |
13J08879
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
山本 真紗子 立命館大学, 衣笠総合研究機構, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 百貨店 / 美術部 / 髙島屋 / 中井宗太郎 / 三越 / 阪急百貨店 / 百選会 / 川勝堅一 |
研究実績の概要 |
昨年度から引き続き、髙島屋の美術部や展覧会活動、髙島屋百選会の活動の調査をおこなった。髙島屋で宣伝部長等要職にあり、美術品収集家でもあった川勝堅一についての調査では、文献調査のほか、収集作家の遺族への聞取り調査をおこなった。 また、髙島屋と美術史家中井宗太郎の調査では、中井が深く関与していた髙島屋百選会の趣意書内でもとくに本阿弥光悦に関する関心が高かったことについて、論文「百貨店の着物図案と日本美術史学研究―髙島屋百選会趣意書にみる本阿弥光悦論」(『美術フォーラム21』vol.29)としてまとめた。また、口頭発表で、これまでの調査の内容をまとめ発表した。 上記の中井宗太郎に関する資料の探索をおこなう過程で、中井に関する新出の資料群にたどり着くことが出来た。この資料群はいずれも未調査の資料(群)であり、現在目録の作成を行っている。百選会在籍中の中井の研究活動の痕跡を示す調査ノートや自筆原稿類も含まれており、来年度以降も調査を継続しておこなう予定である。また、資料の所蔵者や関係者への聞取りをおこない、中井の研究活動や髙島屋との関係について、新しい解釈を示すことができるのか検討している。 2014年9月に海外調査として、メトロポリタン博物館で開催された “Kimono: A Modern History”展と関連研究会(Kimono: A Modern History Scholars' Day Workshop (*invitation-only Scholars’ Day program))に参加。メトロポリタン博物館に収蔵されている、髙島屋が海外に販売していた着物など、近代着物についての実見調査をおこなうことができた。The New York Public Libraryでは三越呉服店外国主任兼接待係高柳陶造の滞米中の活動の調査として、彼の著作の調査をおこなっていた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年調査をすすめていくなかで、近代の百貨店美術部の活動について考えていくには、近代の百貨店の販売の中心であった、着物について理解しなければならないとの意を強くした。広報誌やポスターなどのビジュアル・イメージ、文化人・学識者による趣意書作成や講演会などの文化事業・戦略など、百貨店の展開する美術・文化活動の多くは着物事業とのかかわりで実施されている。これらは美術部の活動について考えていくうえでも無視できない。髙島屋の着物新図案創出機関である百選会を中心に調査を進めている。とりわけ百選会顧問の中井宗太郎に注目し調査しているが、これについてはとくに進展したと考えている。前述したように、百選会趣意書の内容についての検討を進めている他、新出資料の調査にも着手している。 また、昨年度に引き続き、海外にのこる輸出用の作品調査を実施することができた。2014年9月の海外調査では、海外輸出用の着物の遺品を実見できたこと、調査対象者の海外での活動に関わる資料について調査し、店舗跡なども確認することができた。加えて、海外での近代着物への関心のありかたや、在外コレクションの現状、着物研究の現状についても広く学ぶことができた貴重な機会となった。欧米でも近代の着物コレクションの形成が進んでおり、国内の資料とともに検討していく必要がある。 一方、本年度の調査として予定していた民藝に関する調査については、文献調査の実施や聞き取り調査をおこなっていたものの、当初目標としていた百貨店美術部と民藝運動とのかかわりについて十分に明らかにできたとは言い難い。最終年度に向け、追加調査を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の実績報告でも述べたが、昨年度より開始した中井宗太郎の新出資料の基礎調査を完了し、資料紹介を行う。また、中井の日本美術史研究と百貨店の文化事業とのかかわりについて、新出資料から得られた知見をもとに考察を行う。 2014年度に十分でなかった百貨店美術部と民藝運動に関する調査は、百貨店での民藝関連イベントや民藝売り場について、これまで調査してきた新聞記事や百貨店社史類以外にも調査対象を拡大する。川勝堅一についての追加調査も行いたい。昨年度までは河井寛次郎との関係を中心に調査を実施したが、川勝の関与した美術展やコレクターとしての収集作品は河井だけにとどまらない。河井作品以外の収集品にも目を向け、資料の発掘につとめたい。 2015年度は、百貨店美術部とアカデミズムとのかかわりについて考察していく。継続中の中井宗太郎についての調査のほかに、院展等の公募展、画家の団体展の百貨店での開催について、文献調査を行う。美術部の活動が本格化する大正期には、百貨店が複数階建ての洋風建築へと改築されることに代表されるように、百貨店の空間の変化と、それに伴う客の消費行動の変化があった。百貨店の立地する都市の繁華街や、大衆消費社会の訪れのなかでの百貨店の役割については、大阪・心斎橋等を対象にした研究成果などが参照できる。こうした百貨店そのものの変化や時代背景についても着目しつつ、考察を行っていく。 これまでの調査から、呉服店系と電鉄系の違い、立地する都市・地域による違いなど、いくつかの視点からそれぞれの百貨店美術部の特色を明らかにできるだろう。これに加え、時代背景なども考慮しながら、最後に、本研究開始以前の調査・研究成果と上記三年間の論点の整理と体系化を行い、単著としての刊行を目指す。
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