研究課題/領域番号 |
13J08901
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研究機関 | 麻布大学 |
研究代表者 |
浅場 明莉 麻布大学, 獣医学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 音声コミュニケーション / マウス / 性行動 / 求愛歌 / 前辺縁皮質 / 感覚統合 / 性フェロモン / GnRH |
研究概要 |
雄マウスは雌マウスに出会うと、歌構造をもつ超音波音声を発するが、雌マウスにおける雄の求愛歌の受容と伝達に関わる神経回路と繁殖制御機構に対する効果は明らかにされていない。先行研究では、雄の求愛歌が雌の繁殖効率を促進させ、さらに雌マウスは雄の嗅覚刺激が存在している際に、異系統雄の歌へ嗜好性を示すことを明らかにしてきた。本課題は、雄マウスの求愛歌が雌の生殖機能を活性化するメカニズムを、嗅覚との感覚統合神経回路も含めて明らかにすることを目的としている。 「雄マウス求愛歌が雌の交尾行動に及ぼす影響の調査」 : 性行動時における雄の歌の役割を調べるために、無声化処置を施した雄を作出し、偽処置の雄と比較して、雌の性行動が変化するかを調べた。その結果、偽処置雄提示群の雌は、無声化処置雄提示群の雌に比べて、雄への接近回数やその持続時間が有意に高くなることが明らかになった。このことから、雄の歌は雌の接近行動を誘起している可能性が考えられた。 「求愛歌と雄フェロモンの統合神経核の同定」 : 雄フェロモンの存在下で、歌、あるいはノイズを提示された雌の脳内神経活動を観察した。In situハイブリダイゼーション法を用いて、前初期遺伝子であるC-fosを指標に脳全体を解析した結果、歌とフェロモンの共提示によって、前辺縁皮質が特異的に活性化していることがわかった。前辺縁皮質は感覚統合や意思決定に関連していることから、雌マウスは雄の嗅覚情報と聴覚情報を統合することで嗜好性を示すことが示唆された。 これらの発見は、生物の繁殖に重要な雌雄間コミュニケーションを支える感覚統合と意思決定の神経基盤を理解する上で、重要な一歩となると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
求愛歌が雌の生殖機能を活性化するメカニズムを解明するために必要な、GnRHとc-fosの二重染色とその解析については、条件検討の段階であるが、In situハイブリダイゼーションを用いたc-fosの全脳マッピングにより、歌とフェロモンを提示された雌マウスの脳における反応を網羅的に、そして効率的に解析することができた。 また、これまでの研究で明らかにしてきた歌嗜好性が、繁殖パートナー嗜好性と関連しているかを調べる研究を立ち上げており、雌がどの条件の雄を繁殖パートナーとして選んだかを確認するために必要な、マイクロサテライト繰り返し回数の違いを用いた近交系マウスの親子鑑定法を確立できた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、前辺縁皮質を中心にさらに解析をすすめ、神経活性特異的に人工的な抑制性Gタンパク受容体を発現させることでその神経活性を抑制できるDREADDs-Gic-fosTgマウスを駆使して人為的に抑制し、歌嗜好性が消失するのかを実証実験する。 また、GnR Hとc-f osの二重染色と平行して、歌提示により雌のエストラジオールなどの性ホルモンの分泌が促進されるか調査する予定である。
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