研究課題/領域番号 |
13J08942
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研究機関 | 豊橋技術科学大学 |
研究代表者 |
磯谷 亮介 豊橋技術科学大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | テスト磁性フォトニック結晶 / 磁気ホログラム / 光学計算 / ナノ構造体 / 光学多層膜 / 薄膜 |
研究実績の概要 |
マルチフェロイックフォトニック結晶(EMO構造)は,高速に光の全状態(強度・偏光・位相)を低電圧で変調できることが理論的に示されている.本研究課題では,100 MHzの駆動速度で回転角変調90度以上,位相変調360度以上の変調性能を実現できる素子の開発を目的とした.また,EMO構造がプレーナ構造であり,集積化において有利であることを利用し,光の全状態をアナログ変調可能な超高速空間光変調器を実現する.これは,従来の液晶変調器やディジタルマイクロミラーデバイス等と一線を画し,光演算や3D投影など高速性が要求される分野で従来の変調器に成り代わることが期待できる. 今年度は,昨年度に作製したEMO構造の変調性能を改善するために,材料面からの検討と集光光をEMO構造に入射したときの挙動を調べるハイブリッド計算手法を確立した.材料としては高いMO効果を示すことが報告されているBi:GIG系材料を検討し,スパッタ法により形成した膜の特性を評価した.その結果,これまで使用していたBiDyAl:YIG膜と比べて1.4倍の高いMO性能指数が得られ,Bi:GIG膜を利用したEMO構造は大きな偏光変調性能を示すことが期待できる.加えて,従来の有限要素法では困難であったレンズ系の中などで,複雑な集光状態を示す光に対するEMO構造の光学応答を調べる手法として,回折理論と有限要素法を融合させたハイブリッド計算を提案した.これにより,集光光場におけるナノ構造体の光学的振る舞い等を予測できる,ナノ光学分野において新たな計算ツールを提供することができた.本手法を用いて,MPC構造に集光光を入射した際の透過光の強度空間分布および回転角空間分布をmmオーダーの実寸モデルで計算できた.さらにEMO構造の応用先の一つで同様のナノ構造をもつ磁気コリニアホログラムに対しても,これまで不可能だった実寸でのコリニア記録系の計算に成功した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,光の偏光状態の制御を行う素子であるEMO構造の変調性能向上のため,材料面からの改善を中心に研究を進めた.これまで,EMO構造の主要要素であるMO膜には,Bi,Dy,およびAlで置換したイットリウム鉄ガーネット膜(BiDyAl:YIG)を使用していた.BiDyAl:YIGは磁気角形性が高く,かつ比較的大きな磁気光学性能を有する強磁性材料である.しかしながら,光吸収などが要因で変調性能が制限されることが昨年度の研究により明らかになり,より大きな磁気光学性能を有する薄膜材料の探査が急務であった.本年度形成したGdを置換したBiDyAl:YIGでは,高い角型比を維持したままMO性能指数を1.4倍に引き上げることに成功した.EMO構造は材料の特性により変調性能が依存するため,BiDyAl:GdYIGを適用することで変調性能自体を引き上げることができると考えられる.また,今回作製した材料は,EMO構造だけでなく,その応用先の磁気ホログラムにも適用が可能であり,様々な用途における磁気媒体としての利用が期待される. 加えて,これまで困難だった集光光中でのナノ構造体の光学応答を調べる手法として,フレネル・キルヒホッフ回折理論と有限要素法を組み合わせた大規模計算手法を提案した.これにより,EMO構造のようなナノ構造体がレンズを含む集光系に配置されることで,どのような光学的振る舞いをするかを予測することができる.本手法は汎用的な大規模計算手法であり,EMO構造以外のナノ多層膜光学媒体(プラズモン媒体やフォトニック結晶等)などの光学応答の評価にも利用できることから,各種光学媒体の応答を調べる上で大変有用なものであると考えている.実際にEMO構造の応用先の一つで、同様のナノ構造を有する磁気コリニアホログラムの記録・再生に適用し,これまで不可能だった実寸での熱磁気記録・光回折シミュレーションに成功した.
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今後の研究の推進方策 |
本年度に引き続き,主要材料の性能向上および最適構造の探査を基軸としてEMO構造の性能引き上げを図る.第一年度の研究成果より,光学薄膜の光吸収が要因となりキャビティのQ値を高くできないことが性能を制限していることが分かっている.したがって,目標達成のためには薄膜の光学特性の向上が最重要課題である.加えて,これまでの基礎研究の成果としてEMO構造の変調性能を評価する.下記計画に沿って研究を進める. ①各光学膜の光学特性向上. 本年度の成果をもとに,各種添加元素を適切に調整しつつ,Gdの含有量を増加させることで,さらなる磁性膜の性能向上を図り,MO性能指数を引き上げる.角型性およびMO性能指数のトレードオフを考慮して,EMO構造の要求に合致するガーネット組成を探査する.また,昨年度の計画として十分調査できていない項目として,磁性膜の高保持力膜の形成を今年度も引き続き行う.EMO構造の安定動作の観点からみると,磁性膜の保持力は大きい方が望ましい.Gdを添加することで保持力が増加することも知られており,上述のMO効果向上と併せて,保持力とGd添加量の関係を詳細に調査し,高い保持力を有する高性能MO材料を探査する. ②EMO構造の形成および評価. ①の材料探査によって形成した光学膜を用いてEMO構造を作製する.実際に作製した構造の光学特性・変調特性を評価し,本研究課題で提案しているEMO構造の変調特性を明らかにする. ③各種応用例への適用. 形成したEMO構造を,本研究課題で応用例として挙げた,光路切替スイッチおよび磁気ホログラフィックメモリへ適用する.特に,最終目標である磁気ホログラフィックメモリについては,記録したデータの再生品質を示すSNR, BER等を向上させ,本研究を,磁気を用いた新たなデータストレージ技術へとつなげる.
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