筋強直性ジストロフィー(DM)では、SERCA1(筋小胞体 Ca2+ATP アーゼ1)のスプライシングが異常となり、SERCA1bの mRNA が検出される。ところで、DM 患者では細胞質内 Ca2+濃度が異常に上昇している。一方、SERCA1はCa2+ポンプで、細胞質内 Ca2+濃度調節に重要な役割を果たす。従って、SERCA1 のスプライシング異常に起因する発現異常が機能的阻害をもたらし、結果、細胞質内Ca2+濃度上昇を引き起こす仮説が考えられた。 この仮説を検証するため、DM患者生検筋を用いてSERCA1bのタンパク質レベルでの発現解析を行ったところ、異常に発現していることが分かった。前年度の研究では、SERCA1アイソフォーム間の活性差異を示し、今年度は更に生化学的・構造学的解析を行い、その機構の一部を明らかにした。 生化学的結果としては、SERCA1bはSERCA1aに比べて、ミクロソーム内のカルシウムイオン濃度が高い時に約半分にまでATP加水分解活性が下がることを発見した。また、ミクロソーム外のカルシウムイオンやマグネシウムイオン、ATP濃度の変化、測定pHの変化による活性比の変化は見られなかった。これらのことから、SERCA1bが多く発現しているDM患者では、SERCA1aに比べて充分にミクロソーム内にカルシウムイオンを汲み込めない可能性が考えられた。これは最初の仮説を支持する結果であった。 構造学的結果としては、アデノウイルス発現系を利用し、活性を維持したまま大量発現や精製が困難である10回膜貫通型の膜タンパク質、SERCA1bの大量精製に成功し、世界で初めてSERCA1bの結晶化に成功した。分解能4オングストロームの結晶が得られ、尾部以外の構造については、SERCA1aとほぼ同じ立体構造をとることが分かった。現在、尾部の詳細な構造解析を進行中である。
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