生体内の細胞は、接着する相手や液性因子の濃度により、位置情報を認識し、機能発現を調整している。生命機能の理解には、位置情報を踏まえた局所的な細胞機能評価が必要である。微小な針で試料表面をなぞり、対象の物理的・化学的情報を可視化できる走査型プローブ顕微鏡(SPM)は、非ラベル、かつ高解像度に細胞機能をマッピングできる。本研究課題では、血管再構築現象における細胞機能の局所的な評価法の開発を目指し、SPMを用いた技術開発を行った。 1.マイクロ・ナノ探針を用いた血管細胞の遺伝子解析 (1) 組織内細胞回収プローブの開発:θ型ガラス管(先端径10 μm)内を炭素で被覆し、2電極を集積化したマイクロ電極を作製した。本プローブを細胞に近接させ、2電極間の電圧パルスにより目的細胞のみを破砕、内容物を回収した。定量PCRの結果、細胞内のmRNAを良好に評価可能であり、三次元血管モデルの部分的な分化な機能変化を評価可能であった。 (2) 単一細胞内局所回収プローブの開発:有機電解質を充填したガラスナノピペット(先端径300 nm)内の電位を制御し、有機相/水相間の界面移動を利用した電気化学シリンジを構築した。本シリンジを細胞内に挿入し、内容物の回収(図1b)、及び定量PCRを行った。結果、細胞体積の1/10以下の回収量から、血管細胞の遺伝子評価が可能であった。 2.血管表面に提示される血栓関連因子の動態評価 SPMの1種である走査型イオンコンダクタンス顕微鏡(SICM)を用い、血管表面に提示される血栓関連因子(vWF)の観察を行った。結果、vWFの分泌と拡散、および形態変化を非ラベルで観察可能であり、さらにvWF放出時に形成される小孔を可視化できた。この細胞膜の変化は蛍光標識では観察が困難であり、SICMが、vWFおよびvWFの運搬機序の評価に有用であることが示された。
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