今年度は、実験装置の精度測定と、階調数と印象の関係性を調査する主観評価実験を実施した。まず、実験装置の精度測定として、プロジェクタの輝度測定からやり直した。プロジェクタの入出力の関係である応答特性の測定は、測定日の影響を強く受けるため、複数回測定して変動の幅を調査した。調査の結果、日変動の大きさが輝度弁別閾よりも大きいものであり、輝度のずれを観賞者が知覚する可能性が考えられたため、主観評価により装置の精度を評価することとした。プロジェクタ1台のみで投影した結果と、本表示手法による多重投影で投影した結果を観賞者に比較してもらい、劣化が認められるかどうか調査したところ、ほとんどの画像においては基準よりも高い評価値が得られたため、観賞者は残りの画像においては目立った劣化を知覚していないことが確認できた。続いて、本研究の題材である階調数について、疑似輪郭の知覚実験を行った。15種類の階調数を用意して評価画像を投影し、各表示画像でどの程度疑似輪郭を知覚できるか観賞者に回答して貰った結果、画素値間の輝度差に対して疑似輪郭の知覚度合いが線形に変化することを確認した。次に、相対評価を用いて同じ画像間の階調数の違いを評価してもらった結果、わずかではあるが、階調数の違いによる印象の変化が見られた。「なめらかな、綺麗な、きめ細かな」といった精細感を表すような語では高階調ほど印象が向上する傾向が見られ、「迫力のある、くっきりとした、立体的な」といった語では低階調ほど印象が向上する傾向が見られた。しかしながら、今回の実験では被験者数が少なかったため、階調数と印象の関係性を明らかにするまでは至らなかった。
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