研究課題/領域番号 |
13J08975
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小島 渉 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特別研究員(PD)
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キーワード | 昆虫 / 繁殖戦略 / 性淘汰 / 性的二型 |
研究概要 |
カブトムシにおいて、母親の体サイズや日齢が、卵サイズの変異を通して、どのように子の適応度に影響するかを調べた。その結果、大きな母親から産まれた子は、大きな成虫になりやすいことがわかった。卵サイズと成虫時の体サイズ、母親の体サイズと卵サイズの間にも正の相関がみられたことから、母親と子の体サイズの間に見られた正の相関は、卵を通して生じると考えられた。一方、母親の日齢と卵サイズの間には弱い負の相関がみられた。しかし、母親の日齢と子の体サイズの間には相関がみられなかった。この理由を解明するため、卵サイズと幼虫の成長率の関係を調べたところ、小さな卵から孵化した幼虫は、大きな卵から孵化したものに比べ、より高い成長率を示した。この補償的な孵化後の成長によって、年老いた母親から産まれた子も、若い時期に生まれた子と同程度の大きさにまで生育すると考えられる。 また、野外における、カブトムシの体サイズと捕食圧の関係を明らかにするため、捕食者に食べられたカブトムシの残骸を回収し、形態計測を行い、生存している個体の形態と比較した。その結果、メスよりもオスが、体の小さなオスよりも体の大きなオスがより食べられやすいことが分かった。また、カブトムシの集まる樹液に、赤外線センサーカメラを設置して捕食者を調べたところ、タヌキとハシブトガラスが重要な天敵であることがわかった。特にタヌキによる捕食は、食べられたカブトムシのうち7割程度に及んだ。長い角を持つ大きなオスは目立つために捕食者に狙われやすくなると考えられる。体の大きなオスは、同性内での競争に勝ち、多くのメスと交尾できる一方で、天敵に捕食されやすいという点で不利になるため、生涯の繁殖成功は従来考えられていたほど高くない可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
飼育実験系を早い段階で確立したため、順調にデータを得ることができ、昆虫における、母親の繁殖に対する資源投資戦略を理解するうえで重要な知見を得ることができた。また、それらの成果を、査読付きの専門誌において、論文として発表することができた。
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今後の研究の推進方策 |
母親の体サイズと子、あるいは卵サイズに正の相関がみられたが、カブトムシの体サイズは幼虫時の栄養条件に強く影響されるため、この関係が遺伝的なものか表現系可塑性によるものなのか現段階では区別できない。これを区別するために、Half-sib法による交配実験を行う予定である。 また捕食者がカブトムシの体サイズの性的二型の進化に与える影響を解明するために、捕食圧の異なる複数の調査地において、カブトムシの形態と捕食圧の関係を調査する。
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