研究実績の概要 |
カブトムシの成虫の体サイズは大きくばらつく。幼虫期の餌条件が成虫の体サイズに与える影響を調べるために、条件の悪い餌と良い餌を与えて幼虫を飼育した。その結果、悪い餌を与えられた幼虫は体重が5分の1程度にまで減少した。さらに、良い餌条件ではオスの体重はメスの1.5倍程度だったのに対し、悪い餌を与えられると体サイズの性的二型は完全に消滅した。これは、オスのほうがメスよりも鋭敏に栄養条件に対して反応した結果である。このようにオスとメスで可塑性が異なるケースはこれまでにあまり報告されていない。 幼虫期の餌条件が同じ場合でも成虫の体サイズにはなお大きなばらつきが存在していたため、餌条件以外にも体サイズに影響する要因が存在するのではないかと考えた。このような中で私は、大きな母親ほど大きい卵を産むことを発見し(図3)、卵サイズがその後の幼虫の成長に影響を与えるのではないかと予想した。室内で飼育して調べたところ、卵サイズと蛹化時の体サイズ、母親の体サイズと子の蛹化時の体サイズの間にそれぞれ正の相関が見られた(図4,5)。また母親の日齢によっても卵サイズは変化した。母親の加齢とともに卵の大きさは小さくなったが、そのような卵から生まれた幼虫は高い成長率を示し、若い母親由来の幼虫と同程度の大きさの成虫へと成長した。本研究から、卵の大きさを介した母性効果により、母親の大きさが子へと受け継がれることが示唆された。この母性効果は、カブトムシの体サイズの大きな変異が維持される重要なメカニズムとなっている可能性がある。
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