カブトムシの体サイズは一つの個体群において大きくばらつく。これまで幼虫の発育条件が成虫の体サイズを決める主要な要因であると考えられてきた。私は実際に幼虫の餌条件や飼育密度を操作し、高密度条件下や発酵のあまり進んでいない腐葉土を食べたときに、幼虫の成長速度が低下すること、体の小さな成虫が羽化することを確かめた。さらに、母親の産む卵サイズも幼虫の発育に影響を与えることが分かった。体の大きい母親は大きな卵を産む傾向があり、これが卵を通した母系効果として子に伝わっている可能性がある。 カブトムシは個体群内だけでなく個体群間においても体サイズが大きくばらつく。それらの変異を定量的に調べるために、国内の5箇所において成虫を採集し、体サイズやオスの角の長さを比べた。その結果、只見(福島県)や屋久島で採集された個体の体サイズは、関東地方などに比べ、ずっと小さいことが分かった。一方、体の大きさに対するオスの角の長さは、只見の個体群は関東のものに比べ変わらないが、屋久島の個体群は短いことが分かった。それぞれの個体群のメス成虫から採卵し、それを同一の条件で育てたところ、只見と屋久島の個体群はやはり関東の個体群に比べ、やはり体サイズが小さかった。つまり、只見と屋久島では、幼虫の生育条件が悪いという理由のみで、野外で小さい成虫が現れるわけではないと考えられる。遺伝的な要因や卵サイズを通した母系効果が影響を与えている可能性が高い。現在、体サイズに対する角の長さの解析を行っている。
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