研究課題/領域番号 |
13J08978
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
池田 朋洋 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | インディグナドス(15-M)運動 / 社会運動論 / 水平民主主義的実践 / 住宅ローン被害者の会(PAH) |
研究実績の概要 |
採用2年目の今年度は、研究対象であり現在進行形の社会運動であるインディグナドス運動ならびにその系統に連なる「住宅ローン被害者の会(PAH)」に関して、2回目となる長期の現地調査を行った。これにより人類学的かつ民族誌的なデータ収集が完了し、平成26年12月の帰国後はこれを元にした博士論文執筆に向けての分析段階に入った。 研究の主目的である社会運動における合意形成の実践の解明に関しては、これがオルタ・グローバリゼーション運動に関わる言説や方法論的な規範のレベルを超えたものであることが明らかとなった。会合における直接民主主義的かつ水平主義的な手法は、例えば政府や銀行が互いに癒着しあう形で住宅バブルを引き起こし危機を招いたと見る視点から把握されることで、既存の権力が日頃から身に纏う癒着体質そのものへの対抗でもある。更に、水平主義的実践はこれまでのスペインにおける社会運動が「政党による社会運動の操作」によって害されてきたという負の記憶ともつながっている。万人に開かれ、万人が平等に発言権を持ち、直接主義的な形で意思決定が為される運動の会合の場は、いかなる政党による操作も受けず、癒着関係(扶助主義的関係)に堕することのない民主主義の場として希求される。 しかし実際には完全なる水平民主主義実践とは為されうるものではない。会合の中で経験のあるものの発言に重きが置かれることであったり、賛成の合図である挙手の身振りや誘導の仕方であったり、ありとあらゆるところに参加者は水平ならざる権力の存在を感じ取る。それは、PAHのような住宅ローンを解決するための運動にあっても、問題の解決をヒエラルキー的な組織構造抜きで行うかどうかという葛藤となって現われる非常に日常的な問題でもある。運動の合意形成の以上のような理解は、既存の研究における規範的理解を乗り越えた重要な研究成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
申請当初、本研究の目的はインディグナドス運動について、主に議会という場での合意形成のプロセスと、各委員会・各個人のそれに対する解釈・実践活動を明らかにすることであった。採用1年目末時点ではそこに運動自体の多様性とその背後にある社会状況との関係性までを分析に含めることが出来た。 現地調査を終えた採用2年目後半では、上記の枠組みから更により普遍的なレベルで、合意形成のプロセスが含有する参加者の民主主義的態度の揺れ動き、即ち、水平主義的実践とヒエラルキー的実践との葛藤にまで踏み込んだ上での運動の理解へと前進した。
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今後の研究の推進方策 |
現地調査を終えたことで、本研究は基盤となるデータの収集を完了することが出来た。今後は収集した現地資料、フィールドノート、インタビュー録音などを再帰的に分析しつつ博士論文の執筆を行う予定である。その前段階として、2015年7月にはスペイン・マドリードでの学会発表、その後10月までに2本の学術論文執筆を予定している。研究のアウトプットの傍らで、政治・法・権力論にかかわる人類学的な理論研究も積極的に行う予定である。
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