本年の研究計画は、国産テレビアニメ草創期の諸動向の中から、商業映像メディアの転換が、アニメーションの制作現場と、その映像表現にあたえた変化や影響を実証的に検討することにあった。この計画は、かなりの程度達成された。 平成27年7月に公刊された論文では、国産テレビアニメが放映開始された1963年に、その事業に参入した制作会社およびテレビ局、スポンサーの動向を追跡し、その中でも従来、劇場用映画制作を行っていた東映動画株式会社においては、スポンサーの都合によって番組枠の維持が流動的で不安定かつ、支払われる製作費が低廉なテレビアニメ事業を継続するにあたり、正社員ではなく個人に業務委託を行う契約者制度が重視されるようになったことを論じた。この内容は、12月に公刊された他の論文の内容と合わせ、10月にヴァッサー大学で行われたアジア研究学会でも発表した。 さらに平成28年1月に公刊された査読付論文では、先の論文の内容を、東映動画に関してより専門的に深め、テレビアニメ制作事業を継続する過程で、同社の労務管理は時間によるものから作業量によるものへと転換し、そこに作業量を技術力の一端として捉える作画職の一部スタッフが呼応していったことなどを実証的に論じた。 また、10月には美学会全国大会にて、テレビアニメ制作事業の開始が、劇場用映画制作の時代に行われていた、アニメーター中心の合議制による作品の質的管理を揺るがし、むしろ演出家による管理へと移行して、それが製作事業における量的管理(スケジュールや予算の厳守)にも寄与したこと、さらにこの「演出中心主義」の成立が、アニメーションの演出において、カメラアングルの多様化など映像表現上の変化をももたらしたことを論じた。 ほか2本の論文を含め、計5本の論文と3回の学会発表を行い、最終年度の業績発表としても単著を構成する内容としても、重要な業績が蓄積できた。
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