パルスレーザー堆積法を用いて、新たな物性を有する種々のダブルペロブスカイト型材料の探索を進めた。パルスレーザー堆積法によって蒸着された酸素欠損Sr2MgMoO6薄膜について、これまで使用していたSrTiO3基板に代わり、より格子整合の優れたGdScO3基板を用いて、基板の格子定数の依存性を調べた。その結果、酸素欠損Sr2MgMoO6薄膜はSrTiO3基板上には格子整合しなかったが、GdScO3基板上では面内の格子定数が一致しており、薄膜がコヒーレント成長していることが明らかになった。また前者に比べて後者は結晶性が向上すると同時に電気抵抗率が低下することを見出した。 酸素欠損したSr2MgMoO6薄膜の電気抵抗率の温度依存性を解析したところ、電気伝導の形態がVariable range hoppingで説明できることを見出した。これは電気伝導を担うMoの4d軌道がMgによって空間的に分断されていることに由来すると考えられる。この結果は、Sr2MgMoO6薄膜のMg/Moのディスオーダーの増加も電気抵抗率の低下につながることを示唆する。 また、上記以外のダブルペロブスカイト探索の一環として、Sr2CrRuO6薄膜の合成に着手した。パルスレーザー堆積法は一般に原料から薄膜への化学組成の転写に優れる手法といわれているが、この系においては薄膜中のRuの量が著しく低下することが判明した。このため減量中のRuの量を過剰にすることで、Ru/Cr比を1:1に近づけることができた。今後の課題として、酸素欠損の抑制や秩序構造の制御など、さらなる製膜条件の最適化が課題である。
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