研究課題
本年度は、主に下記の3テーマについて研究を行った。1.”レーザー角度分解光電子分光(ARPES)装置の開発と定常運転化” 非線形光学結晶BBOを用いてチタン・サファイアレーザーの第四次高調波(FHG)を発生させる際、第三次高調波と基本波の和周波としてFHGを得ると、第二次高調波の倍波としてFHGを得るときに比べて、より短波長のレーザー光を発生させることができる。今年度は、そのような(3+1)倍波を発生させる光学系を購入し、光源のエネルギーが6.41 eV (193 nm)のレーザーARPES実験を行えるようにした。2."層状ビスマス・パラジウム超伝導体におけるトポロジカルバンド構造の研究" b-PdBi2(空間群I4/mmm)は空間反転対称な層状構造を持つ超伝導体(Tc = 5.3 K)である。この物質の電子構造におけるスピン軌道相互作用の効果を明らかにするため、角度分解光電子分光およびスピン角度分解光電子分光を用いてバンド構造とスピン分極の精査を行った。結果として、フェルミ準位を横切るスピン偏極表面状態を観測し、これがトポロジカルに保護されたものであることを明らかにした。 [M. Sakano, et al., submitted.]。3.”弱いトポロジカル絶縁体候補物質Bi2TeIにおけるスピン分極バンド構造の観測” カリフォルニア大学バークレー校ローレンス・バークレー国立研究所に3ヶ月間留学し、レーザー光源を用いたスピン分解角度分解光電子分光装置によって、新規ビスマス層状化合物Bi2TeIのフェルミ面近傍におけるスピン・電子構造の精査を行った。結果として、非自明なヘリカルスピン構造を有する伝導帯を観測した。
1: 当初の計画以上に進展している
当初の計画においては極性層状半導体BiTeX(X = I, Br and Cl)を研究対象としていた。本研究ではそれに加えて、空間反転対称性の破れた遷移金属ダイカルコゲナイドやパラジウム・ビスマス超伝導体、新規層状ビスマス化合物半導体において、自発的スピン偏極電子状態を直接観測することができた。それぞれの物質において、巨大2次元/3次元巨大ラシュバ型スピン分裂伝導帯や、バルクにおけるスピン自由度とバレー自由度が結合した電子状態、半金属におけるトポロジカルに保護されたスピン偏極表面状態、といったさまざまな新奇な電気・磁気協調現象を見出すことができた。以上の理由から、本研究は当初の計画以上に進展していると考えられる。
今後は、これまで観測されたスピン偏極電子状態のうち、その起源が未解明なものについては、さらなるスピン・電子構造の精査や理論計算・他の実験手法を用いて、起源を解明していく。そして、これまでに各物質において観測および起源解明されたスピン偏極電子状態を、統一的観点から見直すことによって、さらなる新規電気磁気協調現象の探査や、スピントロニクス材料開発についての指針を得る。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (5件) 備考 (1件)
Nature Nanotechnology
巻: 9 ページ: 611-617
10.1038/nnano.2014.148
Physical Review B
巻: 90 ページ: 121111(5)
10.1103/PhysRevB.90.121111
http://www.t.u-tokyo.ac.jp/epage/release/2014/2014080501.html