研究課題/領域番号 |
13J09053
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
関 有沙 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 古環境 / サンゴ / 石筍 / ウラン系列核種 / 年代測定 |
研究実績の概要 |
本研究では、中・低緯度の水循環過程の解明に貢献するため、炭酸塩に記録された古気候情報を復元することを目的としている。特に、陸の情報を記録している石筍試料と海の情報を記録しているサンゴ試料の両方を用いることで陸と海の変動を統合的に考察することを試みる。そのためには、両試料に対して高精度で信頼性の高い年代測定を行う必要がある。しかし、日本国内では石筍やサンゴに対する高精度年代測定が行われていないことから、本研究では両試料の高精度な年代測定に不可欠なウラン系列年代測定法の分析立ち上げを行っている。 本年度は、前年度に国外で学んだ技術を生かし、東京大学の高分解能型誘導結合プラズマ質量分析計(HR-ICP-MS)を用いてウラン系列核種の分析条件の検討を行った。実験室の工事で機器が使用できない期間があったこと等から十分な分析条件の確立には至らなかったが、前年度に課題となっていた分析条件のいくつかを解決することが出来た。また、前年度に引き続きHR-ICP-MSのメンテナンスを定期的に実施し、継続的に機器を使用できる環境を整えた。 また、前年度にオーストラリア国立大学で分析したサンゴ試料・石筍試料のウラン系列核種の分析結果を基に年代の算出を行い、結果を国内学会で発表した。サンゴ試料のウラン系列年代測定の結果と放射性炭素の測定結果からは、完新世における黒潮流域の海洋環境変動を考察した。また、石筍試料のウラン系列年代測定の結果を放射性炭素年代測定の結果と比較することで、石筍の年代測定に関する考察を行った。 また、本年度は鍾乳洞での環境調査及び試料の採取も行った。石筍試料は東京大学にて放射性炭素年代測定を行い、ある程度の誤差を持って石筍の年代を推定することができた。この結果は、今後ウラン系列核種を用いた高精度年代測定を行う際の目安として重要な情報である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
鍾乳洞の環境調査や、国外で測定したウラン系列年代を放射性炭素と合わせて用いた古環境変動の考察についてはある程度の進展が見られる一方、ウラン系列核種の分析法の開発については大きく遅れている。 当初の計画では、3年の研究期間のうち1年目で開発を終了する予定であったが,開発を進行するうちにHR-ICP-MSを用いてウラン系列核種の分析を行う上での装置の問題点が多く浮上し、2年が終了した現在でも開発終了の見込みが立っていない。 まず、現在の装置の分析精度は本研究で必要としている値に2桁足りていない。昨年度の海外渡航時にメーカーの技術担当者から、本研究に必要となる高精度のウラン系列核種分析にはHR-ICP-MSを通常の分析に比べて感度の良い状態を維持して使用する必要があるというアドバイスを受けているが、その精度はメーカーで保証している精度よりもさらに高いため、メーカーは技術サポートをしていない。また、現在国外で多く行われているウラン系列年代測定の多くは多重検出器型誘導結合プラズマ質量分析計(MC-ICP-MS)を用いてウラン系列核種の分析を行っており、現在使用している機器と同じ機器での分析例は無いため、現在使用している機器を用いての具体的な調整方法は確立されていない。 そのため、研究代表者である特別研究員が昨年度の海外渡航で得た知識をもとに、全世界の技術者(ラボ・マネージャー)が集まるメーリングリストで参考となる情報を集め、必要に応じて海外の技術者に相談を行う等HR-ICP-MSのメンテナンスや使用に習熟すべく努力し、機器の設定を続けたが、大きな進展は見られなかった。 また、開発の遅れに伴い、年度当初に予定していた国外の機関との比較分析のための海外渡航も行うことが出来なかった。 以上の状況を鑑み、当初の計画よりも遅れていると評価する。
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今後の研究の推進方策 |
上記のように、ウラン系列核種の分析法開発が非常に遅れていることから、計画の大幅な見直しが必要だと考えられる。上述の分析精度が2桁不足している問題以外にも、輸入したウラン同位体の標準試料とトリウム同位体の標準試料を用いて混合標準試料を作成しなければならないという問題もある。個々の標準試料は同位体比を保証した標準試料であるため濃度の値は定められておらず、混合標準試料作成後にはウランとトリウムの同位体比を分析により決める必要がある。そのためには繰り返し測定や他の機器との比較分析が不可欠であり、かなりの時間がかかることが予想される。さらに、HR-ICP-MSでの分析のためのクリーンルームにおける前処理に関しても本研究で立ち上げを進めているが、未だ多くの検討事項が残されている。これらの状況について国外の技術者に相談したところ、手法開発の完了にはあと数年はかかるだろうという予測を複数得た。 以上のことを考慮すると、残り1年の研究期間で分析手法の開発を完了し、アジアモンスーンの変動を記録している炭酸塩試料の分析を行うのは現実的には不可能と思われる。 従って、大幅な研究計画の変更が必要だと判断し、現在、他の手法を用いて中・低緯度の水循環を復元することを検討している。具体的には、アジアモンスーンの変動を記録していると考えられる日本周辺の海底堆積物を用いること等を検討している。
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