細胞内異常タンパク質の主要な分解機構であるオートファジーの破綻と広範囲の疾病との関与が示唆されているが、本機構に着目した食品機能性研究はほとんど例が無い。そこで本研究では、オートファジーの活性化を作用標的とした機能性食品成分の探索及びその作用機構の解明を目的とした。 平成27年度の大半はカリフォルニア大学サンディエゴ校(米国)に渡航しており、Albert La Spada教授の研究室においてmTORC1 (mammalian target of rapamycin complex 1) 制御シグナルに関する基礎的な研究を行った。mTORC1はアミノ酸飢餓条件におけるオートファジー活性化機構において中心的な役割を担うことが知られているが、本分子がアミノ酸をセンシングする分子機構に関しては、現在のところ統一的な見解が得られていない。近年、La Spada教授らはmTORC1の上流を制御するシグナル分子としてMAP4K3を同定した。そこで、MAP4K3-mTORC1シグナルと、細胞内エネルギーセンサーとして知られるAMPKとの関与を想定し、本仮説の妥当性を検証した。 まず、免疫沈降法により、HEK293T細胞におけるMAP4K3とAMPKとの相互作用を見出した。また、MAP4K3ノックアウト細胞において、AMPKが活性化する一方でmTORC1が不活性化していることが明らかとなった。興味深いことに、CRISPR/Cas9システムによりMAP4K3及びAMPK alpha 1/2 subunitをトリプルノックアウトした細胞が、野生型HEK293A細胞と同程度のmTORC1活性を示した。以上の結果から、AMPKはMAP4K3の下流でmTORC1活性を制御する可能性が強く示唆された。新たに同定した本シグナル伝達経路は、オートファジーを亢進する機能性食品成分の新たな作用標的となりうる。
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