一般的なT型フォトクロミック分子とは逆の挙動を示す逆フォトクロミック分子では、可視光照射によって有色体から無色体が生成し、熱的にもとの有色体に戻る挙動を示す。一般的なT型フォトクロミック分子とは異なり、無色体は励起光である可視光を吸収しないため、逆フォトクロミック分子では材料の内側においてもフォトクロミック反応を誘起することができる。しかし、これまでに報告された例では無色体から有色体への戻り反応に時間がかかるため、高速な分子構造の制御は実現されていなかった。 今回、ビナフチル骨格の1位と1'位にフェノキシルラジカル、イミダゾリルラジカルを導入した、ビナフチル架橋型フェノキシル―イミダゾリルラジカル複合体(BN-PIC)を設計、合成した。BN-PICは熱力学的に安定な発色体、速度論的に安定な消色体、短寿命のビラジカルの3つの異性体を含み、可視光照射によって黄色から無色に退色する逆フォトクロミズムを示す。量子化学計算の結果から、このBN-PICの逆フォトクロミズムは熱力学的支配の反応と速度論的支配の反応を含む、これまでにない機構で進行すると考えている。また、BN-PICにフェナントレン部位を導入することで、消色体の室温における半減期が約2秒とこれまでで最も高速な熱戻り反応を示す高速逆フォトクロミズムを実現した。 このような高速逆フォトクロミック分子を用いることで、材料の内部においても高速な分子構造のスイッチングが可能になると考えられる。こういった特性は液晶の光相転移や実時間ホログラフィ材料などの、表面近傍だけではなく、材料の内側における分子構造変化が有利に働き、また高速なスイッチングを必要とする分野において、有用になると期待できる。
|