研究課題/領域番号 |
13J09084
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
吉野 靫 立命館大学, 衣笠総合研究機構, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | トランスジェンダー / 性同一性障害(GID) / ジェンダー / セクシュアリティ / クィア / GID規範 / 遺産なきマイノリティ |
研究実績の概要 |
2014年度の研究については、前期に関東圏在住のクィア当事者へのヒアリングを行った。当初計画していた課題(日本と米国における「LGBT」あるいは「アライ(Ally)」文化・概念の齟齬)以上に、多岐にわたるテーマでのヒアリングと意見交換を行うことができた。多くの運動に見られる傾向として「東京中心主義」が幅をきかせがちな中、また学会やイベントが大都市に集中する中、地方出身・地方在住ゆえに発生する「性的マイノリティ」の問題は軽視されがちである。まさに申請者の研究テーマである「先行資源が枯渇している」状態での当事者の生きしのぎ方は、アカデミズムの世界で正面から取り上げられることが稀なテーマであり、次に繋がる内容の調査を行うことができた。 このヒアリングも含めて2014年度に整理してきたトピックは、「LGBT」に関連する活動が未だに「ゲイ中心主義」を脱却できていないこと、トランスジェンダー当事者のメディアでの扱いが「生まれ持った性(身体の性)と逆の性への移行(埋没)を望む当事者」像で固められており実態との乖離が是正されていないこと、多くの社会運動の中でジェンダー・セクシュアリティの問題がフレームダウンさせられていること(例えば社会運動の中でマチズモ的な物言いが「評価」「免罪」され、そこに疑問を感じる性的マイノリティの意見は尊重されにくい)、「同性婚」への支持がマーケティングに取り込まれたり、人権問題に取り組んでいるという行政のアピール材料として利用されたりしていること等である。 また昨年度に続いて、性的マイノリティ課題との共通点も多い水俣病事件の認識を深めるため「岐阜・水俣展」(NPO法人水俣フォーラム主催)を始め、小規模な企画・学習会への参加もできる限り行い、見識を深めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2014年度は、6月末から申請者の持病が悪化し、安静を余儀なくされる期間が発生した。その合間を縫って研究活動を進めてきたものの、まとまった論文が発表できなかったことは反省点である。一方で若手研究者の研究会で各種ハラスメントやフェミニズムについて講師を行ったり、渋谷区の同性パートナーシップ条例等に見られる「LGBT」の「政治利用」について衆議院議員と意見交換を行うなど、単なるアウトリーチ活動にとどまらない研究内容の還元ができた。特に同性パートナーシップ条例については、これまで申請者が明らかにしてきた「性同一性障害特例法」の制定と酷似した成立過程であるとの指摘も散見され、継続的な課題として提起していく必要がある。 なお今年度の論文発表に至らなかった予期せぬ理由の一つとして、療養期間中に論文の剽窃対応を迫られたことが挙げられる。自称活動家が申請者の考察を自らの考えとして発表していたため指摘を行ったところ、先方が法に抵触する手段で連絡先を入手し、強引にメールを送ってきたり、受け入れ先の研究科事務に電話をしてきたり等、非常な迷惑を被った。学振研究員は受け入れ大学に雇用されるわけではないので、このような被害に遭った際、どこと連携しどう対応すればよいか、指針が必要である。 上記のいきさつも含めて指導教員とも相談した結果、2014年度分の科研費の一部を2015年度に繰り越すこととして手続きを行った。繰り越した予算の使途は学術シンポジウムの開催に決定しており、現時点では「トランスジェンダーと医療」を中心のテーマとする予定で検討を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
2015年度は最低でも一本は論文の発表を行いたい。最終年度となるため、3年間の研究を俯瞰するものとしたい。また博士論文の単著化について、出版社と具体的な相談を行い、方向性を決定することも必ず行うものとする。 研究遂行上の問題としては、体調の悪化とその継続が挙げられるが、寛解に時間がかかる症状であるため、医師のアドバイスを受けつつ治療と研究活動を並行していく。その対応策としては、フィールドワークの際に同伴者を依頼すること、負担となる作業にはアルバイトを依頼することなど、人的な支援によってある程度解消できると考える。 また繰り越しを行った予算で学術企画を行い、ある程度の集客を目指したい。
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