研究課題/領域番号 |
13J09098
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研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
岡野 千草 宇都宮大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 細胞間情報伝達機構 / クオラムセンシング / N-アシルホモセリンラクトン / 微生物複合系 / グラム陰性細菌 |
研究概要 |
バクテリアの細胞間情報伝達機構(Quorumsensing : QS)は、菌体密度依存性の遺伝子発現機構であり、グラム陰性細菌のQS機構では、N-アシルホモセリンラクトン(AHL)がシグナル分子として生産され菌体外に放出されている例が知られる。QS機構は、バイオルミネッセンス、バイオフィルム形成、抗菌物質の生産、細菌感染症を発現する病原性因子の生産など、多様な生物機能を制御しており、QS機構を人為的に制御する新システムの構築は多くの産業分野に適用可能であり汎用性が高いと考えられる。グラム陰性細菌のシグナル分子としては、アシル鎖構造のみが異なるAHLが菌種に依存せず広く生産、利用されており、本研究ではAHLを介した細胞間シグナリングであるQS機構の制御系をターゲットとした。 平成25年度は、QS機構の菌体密度依存性に着目し、QS機構を人為的に制御する微生物複合系の構築を試験した。QS機構を有するグラム陰性細菌の日和見感染菌モデルとして、栃木県内の土壌より単離したSerratia marcescensを選択した。S. marcescensは、N-ヘキサノイルホモセリンラクトンおよびN-(3-オキソヘキサノイル)ホモセリンラクトンを、シグナル分子として生産し、抗菌活性を有する赤色色素プロディジオシン生産をQS機構により制御している。QS機構の活性化は、培養液から抽出したプロディジオシンの可視吸収測定により評価可能であった。検討の結果、S. marcescensの共培養により試験した微生物複合系の中には、QS依存性のプロディジオシン生産を活性化させる組み合わせがあることを複数例見出し実証した。経時変化測定から、微生物複合系を反応場とするプロディジオシンの生産量が単独培養時よりも増大する系も見出しており、今年度確立した微生物複合系を利用するQS機構の活性化システムの作用機序解明を次年度以降も継続して推進する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度は微生物複合系を試験するための実験系を確立し、QS機構を活性化可能な微生物のスクリーニングを主目的とした。今年度は、環境試料から数百株の細菌を単離し、モデルQS菌との共培養による微生物複合系を試験した。共培養によりQS機構が」活性化する細菌の単離に複数株成功しており、培養時間、複合フロック形成能、QS機構活性化の関連を詳細に調査した。QS機構を活性化可能な微生物複合系を構築できたことなどから、研究はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度に構築したQS機構を活性化可能な微生物複合系に関し、活性化の作用機序の解析を継続して進める。複合系フロック内外のAHL濃度測定、フロック内外の菌体密度評価、レーザー回折・散乱法を用いるフロック形成過程におけるフロック径の変化などを経時的に追跡する。 QS機構を活性化する高分子担体を設計し、グラム陰性細菌のシグナル分子N-アシルホモセリンラクトン(AHL)濃度を時間的制御する新システムの構築を目指す。担体からのAHLデリバリーを実現するために、AHL徐放性能を有するゲル素材の調製と徐放性能評価を実施する。
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