演奏中の知覚情報の役割を探るため、視覚情報と聴覚情報を遮った演奏の解析を進めた。ミスタッチを含む各打鍵情報が楽曲中のどの音を鳴らそうとしたものであるかを対応づける作業の客観性と再現性を保つために、この作業を自動化することに取り組んだ。ここでの演奏データエラーは通常の演奏より非常に大きく数も多かったため、既存のプログラムをそのまま利用することはできなかったが、九州大学の澤井賢一氏の協力により、ここでの演奏データにも適用可能で、なおかつ打鍵位置エラーサイズをより適切に評価できるプログラムを実装することができた。分析の結果、視覚情報が優位に役割を果たしており、聴覚情報がそれらを助けている傾向が観察された。ここまでの演奏中の視覚と聴覚遮蔽の影響に関する実験内容及び結果を、International Symposium on Performance Science(ISPS)において発表した。 上記に述べた演奏課題は各実験参加者のレパートリーの抜粋であったため、演奏の状況の自然さが確保された一方、参加者によって楽曲が異なっていたことともおそらく関連して、結果に大きなばらつきが生じていた。そこで、演奏状況の自然さを保ちながらも統制された演奏実験ができるよう、11月より新たに音形や調性を意図的に設定した課題をもちいての実験を開始した。この実験では、視覚、聴覚情報の遮蔽条件のほか、音形によるエラーの現れる度合いや現れ方の傾向をより細かく調査している。 また、5月から7月にかけて、ウィーン国立音楽大学音楽音響研究所に滞在し、電子ピアノでの跳躍課題における、注意を向ける情報モダリティの影響に関する実験を計画し、準備にあたった。この実験は、これまでにおこなったキー位置記憶研究と、演奏時に役割を果たす情報のモダリティの検討というテーマをつなぐものであり、本研究課題の拡張として継続する予定である。
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