研究課題/領域番号 |
13J09109
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研究機関 | 日本電信電話株式会社NTTコミュニケーション科学基礎研究所 |
研究代表者 |
白間 綾 日本電信電話株式会社NTTコミュニケーション科学基礎研究所, 人間情報研究部, 客員研究員
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 眼球運動 / 感覚運動 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は人間の視線情報から、動作者の個人性や性格特性等を解読し、それらの心理・社会的役割を明らかにすることにある。申請者は成人の発達障害の専門外来をもつ昭和大学附属烏山病院との共同研究により,自閉症スペクトラム障害(ASD)者を対象として自由発話中の眼球運動を測定した。その結果、定型発達者でみられるような時空間特性での眼球運動の個性化がASDでは弱まっている可能性が示唆された。ASDは神経発達障害の一つであり、視線を通じたコミュニケーションに障害があると考えられており,ASDの眼球運動にみられる特異性がどのように生じるかを検討することで,視線情報の心理・社会的役割について新しい知見が得られることが期待できる。 26年度はASD者の眼球運動と知覚特性についていくつかの実験を行った。固視ターゲットがある場合には,ASD者は定型発達者と同程度の固視の安定性を示したが,固視ターゲットが存在しない場合には,ASD者の固視の安定性は低下した。固視ターゲットがない状況では,眼筋の固有感覚等の網膜外情報を用いて眼球運動をコントロールする必要がある。そのため実験結果は,ASDの網膜外情報を利用した感覚運動障害を示唆している。一方で、ASD患者が示す優れた視覚探索成績に注目し、優位性が生じるメカニズムを検討した。とくに並列的な処理過程を検討するため、視覚探索課題を瞬間的に提示し,ASD群と定型発達群の成績を比較した。その結果ASD群ではターゲットの弁別性や刺激数によらず,RTベースラインが100-200ms程度低下し、並列処理過程における優位性があることが示された。ASDの主な特徴は社会コミュニケーションの障害であるが,感覚や感覚運動機能にも特異性があることが明らかになってきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
視線情報の心理的・社会的機能を明らかにするために、対人コミュニケーション障害をもつASD患者を対象に研究を行い、26年度はASD者の感覚運動障害や促進的な知覚特性についていくつかの発見を行った。感覚運動や知覚は対人コミュニケーションを成立させる基盤として重要である。従来のASD研究では、表情や心の理論など、比較的高次の認知特性が注目されてきたが、感覚・運動の特異性と対人コミュニケーション障害の関連を検討していくことも必要である。
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今後の研究の推進方策 |
申請者が以前明らかにした,ASD者の自発的眼球運動パターンにおける弱い個性化と,H26年度に明らかにした感覚運動機能や感覚特性の異常との関連は今後の課題として残される。ASD者の社会コミュニケーション障害に関する研究は,心の理論やミラーシステムなど,高次な脳機能に関する研究が中心となってきた。しかし感覚や感覚運動機能は,対人コミュニケーション基盤となる。来年度の研究では,この段階で生じる障害が対人コミュニケーション機能にどのような影響を及ぼすかを検討したい。
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