研究課題/領域番号 |
13J09130
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
清原 悠 東京大学, 大学院情報学環・学際情報学府, 特別研究員(DC2)
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キーワード | アイデンティティ / 社会運動 / 性役割 / 性別役割分担 / ジェンダー・ポリティクス / 誌面のコミュニケーション |
研究概要 |
本研究は女性団体「草の実会」を事例に取り上げ、住民運動の主要な担い手であった女性達に焦点をあて、彼女たちのアイデンティティを分析し、住民運動の展開にどう寄与し、また運動によってどのようにアイデンティティが変化したのかを分析することを目的にしている。そして、1950年代-2005年までを含めて研究を行うことで、住民運動の通時的な歴史像を、主要な担い手の女性を軸にして明らかにすることが最終的な目的である。 本研究では今年度、査読論文を2本執筆し、複数回の学会報告を行った。査読論文「〈私的な公共圏〉における政治性のパラドックス」では、1950年代における草の実会の立ち上がりと活動の展開、組織構造を分析した。この論文では、外出が困難な状況におかれていた当時の女性たちが、機関誌「草の実」を発行する活動を通し、誌面上でコミュニケーションを行うことで連帯感を醸成し、自分の生活環境と国政レベルの政治・経済環境とを結びつける視点と能力を獲得していったことを明らかにした。そして、草の実の会員たちは「妻」や「母」、「主婦」という性役割ではなく、役割には還元されない「女性」という主体に基づいた行動を展開しようとしていた点を明らかにした。この知見が重要なのは、50年代は母親大会のように性役割に基づいた社会運動がこれまで有名であり、性役割意識に還元されない女性の社会運動が50年代に展開されていたことは先行研究では注目されていないからだ。つまり、性別役割分担と性役割意識を「女性」というアイデンティティに依拠して批判するジェンダー・ポリティクスを会員たちは早くも50年代に展開していたのである。また、日本生活学会ならびに関東社会学会の学会発表では1970年代における草の実会の状況の分析を報告した。更に、国際学会での英語報告として2nd Annual University of Tokyo-GSII Graduate Student Conferenceにて草の実会についての報告を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究実施計画としては、草の実会の50年の歴史を2年間で分析することを掲げており、今年度は50年代の研究を査読論文にまとめ、70年代については分析に着手し学会報告を複数行った。つまり、20年分の分析を本年度は行ったこと。また、博士論文1次審査を行い合格したことから、当初の計画に対し①当初の計画以上に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
草の実会の80年代の分析に関しては年度内に仕上げることは難しいことから、博士論文の2次審査も年度内に行うことは難しいと考えている。しかし、博士論文の元になる査読論文を着実に積み上げることで、26年度の研究成果を出していきたいと考えている。そこで26年度の研究計画は、草の実会の60年代と70年代の分析を行い、査読論文として2本投稿する予定である。投稿先は『マスコミニニケーション研究』ならびに『年報社会学論集』を予定している。あわせて、英語での国際学会報告も予定しており、比較社会学的な分析も試みていくことで、従前の計画を修正しつつもより充実した博士論文の準備を進める。
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