研究概要 |
本研究では、ヒト肺上皮細胞における酸化ストレス及び炎症性遺伝子の誘導と、その発生機序について調べ、酸化ストレス反応を中心としたSOAの毒性に関する詳細な科学的知見を得ることを目的としている。本実験に用いた3種類のSOA(α-pinene, m-xylene, 1,3,5-trimethylbenzene (TMB))は、いずれも酸化ストレスマーカーであるheme oxygenase-1 (HO-1)遺伝子の発現を有意に増加させ、特にm-xylene由来のSOAで高い活性を示した。一方で、炎症性のケモカインであるIL-8の誘導はSOA曝露では見られなかった。このSOA曝露によるHO-1の誘導には、主にnuclear factor (erythroid-derived 2)-like 2 (Nrf2)を介した転写活性化が重要であり、さらに、SOAによるNrf2の活性化には細胞外からのカルシウムの流入やphosphoinositide 3-kinase (PI3K)リン酸化酵素が関与していることがわかった。次に、炎症時に肺で産生される腫瘍壊死因子(TNF-α)で細胞処置すると、m-xylene由来SOAによるHO-1の誘導がさらに増加した。また、TNF-α曝露によってIL-8遺伝子の発現が誘導されたが、m-xylene由来SOAはこのTNF-αによるIL-8の誘導をさらに増加させた。以上の結果から、SOAはヒト肺上皮細胞において酸化ストレス反応を誘導するとともに、慢性閉塞性呼吸器疾患(COPD)等の呼吸器系疾患等に見られる肺炎症時において、さらなる病態の悪化を招く可能性が示唆された。これら呼吸器系細胞に対するSOAの毒性に関する情報は、SOAの削減に向けた問題提起や、規制のための根拠となる基礎的データとして重要である。
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