研究概要 |
光反応は熱反応では合成が困難な化学物質を容易に合成できる有用な反応であるが、工業的な利用に関しては大きな制限を受けているのが現状である。申請者はこれまでに、マイクロリアクターと呼ばれる微小反応器によって、不斉[2+2]光付加環化反応が効率よく進行することを明らかにしてきた。さらに他研究グループと共同で、不斉光反応をオンライン測定可能な装置の開発にも取り組み、偏光角と紫外吸収を高い精度でオンライン観察することに成功している。しかしこれらの結果の有用性は、実際の合成手法の中では未だ実証されていない。今回、(1)-メントールを不斉補助基としたベンゾイルギ酸誘導体と2,3-ジメチル-2-ブテンとの不斉Paterno-Buchi型反応を新たなモデル反応として、マイクロリアクターを用いたさらなる効率的不斉光反応手法の創成と、オンライン測定装置の機能実証に取り組んだ。不活性試薬と反応溶液とのスラグ流条件をマイクロキャピラリーリアクター内で形成した状態で不斉光反応を行った結果、通常の一相流状態で光照射した場合よりも高い生産性、エネルギー効率性が得られた。さらに、サイズを大幅に低減した測定デバイスを用いて、このモデル反応における偏向角、紫外吸収のオンライン観察を行った。その結果、小型化したデバイスにおいてもこれまでと同様の高い精度で偏向角、紫外吸収を観察することができた。以上、本研究内において不斉光反応を様々な条件下で行い、マイクロリアクターの特性を利用した簡便かつ効率的な不斉光反応の開発に成功した。特に不活性試薬によるスラグ流条件は、光反応を効率化する手法として新たなツールを与えるものである。さらに、より小型化した偏向角測定デバイスを利用した不斉光反応の観察にも成功した。以上、本研究は今後の光反応の更なる発展に伴ってそのスケールアップが重要となる状況で、重要な知見となると考えている。
|