研究概要 |
本年度は, 隠消現実感(Diminished Reality ; DR)のための手法とその評価法の2点に関して重点的に研究を行った. 1. 効果的な隠背景の復元方法 : DRにおける根幹技術である隠背景の復元に関して, 隠背景の幾何形状が平面もしくはその組み合わせの単純な場合とより複雑な場合とで2種類の復元方法を提案した. 単純な場合, 幾何学的復元は容易なため, 光学的不整合の解消に焦点を当てた. 具体的には, DR処理実行時と事前準備時の照明条件の差異を, 除去対象領域周辺に定義される周辺参照領域の画素値を入力画像と復元結果とで比較して最小化する手法を開発した. 複雑な場合, 隠背景の幾何形状及び光学特性を明示的に保持する方法はとらず, 代わりに, 大量の画像群から任意視点画像を生成するLight Field Rendering (LFR)法を用いる手法を提案し, 復元が困難だった草木やガラス瓶を含む隠背景でも除去対象を除去できることを示した. ただし, 保存できる画像枚数は有限であるため, DRにおける効果的なカメラ群の配置方法に関して検討し, 球面上に配置する方法を提案した. 2. DR手法の効果を評価・実証するための実験用スタジオ : 実寸大セット(5m×5m)及びミニチュアセット(2m×2m)を設計・構築し, そこに撮影システムを導入することで, これまで困難であったDRにおける入力・正解画像シーケンス対の撮影を可能にした. セット内の小道具や大道具, 照明装置の配置や組み合わせは, シーンの幾何形状, 天候や照明条件に対応するため, 多種多様な実験条件での撮影が可能である. また, 工業用の6軸ロボットアーム, 高解像度カメラを導入し, これらを同期させるシステムを開発することで, 除去対象のある/なし(入力/正解)の画像対を撮影可能にした. これは, DR手法評価のための基盤システムの開発が完了したことに相当する. また, 上記と並行して, 博士前期課程での研究成果である「ステレオカメラを利用したカメラ位置姿勢推定式」に関して, 国際学会にて発表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
博士前期課程での成果を, 国際学会を中心に発表した. 初年度の主テーマである「隠消現実感(Diminished Reality ; DR)」に関しての業績が学術論文として採択された. 隠消現実感のための「実験スタジオの設計・構築」「隠背景のモデル化」に着手及びこれを完了し, 次年度の「データ計測」にまで着手する等, 計画を先取りする形で研究開発が進展している.
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今後の研究の推進方策 |
引き続き, カメラ位置姿勢推定法の開発と改良に取り組み, DR手法への応用に着手する. また, 引き続き, 隠背景の複雑さに応じたDR手法の開発を進める. 特に, 光学的不整合の軽減はDRにおいて克服すべき重要な技術課題であるため, これに関して積極的に取り組む. 開発したDR手法の評価方法を引き続き検討した上で, 実験用データの取得と蓄積を進める.
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