今年度は、研究実施計画に基づき、隋唐史学史と北朝政治史研究の二方面で研究を進展させた。史学史では、隋唐時代の多様な南北朝歴史像を復元するために欠かせない唐初の虞世南撰『帝王略論』の校訂を進め、『帝王略論』巻一(三皇五帝~秦)・巻四(南朝)の校注稿を作成し、「『帝王略論』巻一校注稿」(『明大アジア史論集』第20号、2016年3月)と「『帝王略論』巻四校注稿」(『国士舘東洋史学』第7・8・9合併号、2016年3月刊行予定)に公表した。また『帝王略論』巻四と依拠史料である南朝史書の関係を分析し、「『帝王略論』と南朝史書」(『国士舘東洋史学』第7・8・9合併号、2016年3月刊行予定)として公表した。 北朝政治史の面では、西魏・北周の歴史像の再検討を進め、「北周侍衛考―遊牧官制との関係をめぐって―」(『東洋史研究』第74巻第2号、2015年9月、査読雑誌)を刊行した。この論文では、北周の皇帝侍衛の官制・職掌・就任者を分析した。また、「北周天元皇帝考」(『東方学』131、2016年1月:査読雑誌)を刊行した。この論文では、北周末期の宣帝が天元皇帝を自称し、自らを「上帝」に擬して、「天」との同一化を図った背景について分析した。 また、2016年1月9日に韓国のソウル大学で開催された国際シンポジウム「欧亜大陸東部視角所見中国中古史的転折点与新歴史分期的探索」において、「北周武帝的禁衛改革和華北統一」と題して中国語で研究報告を行った。これは、北周の武帝が行った禁衛改革の内容を分析し、新設された禁衛が武帝による華北統一事業に貢献したことを示したものである。 そのほか、和泉市立久保惣美術館所蔵唐代墓誌について、齊藤茂雄氏と共著で「唐初における鮮卑系官人の諸相―和泉市久保惣記念美術館所蔵墓誌を中心に―」(『史泉』第122号、2015年7月)を刊行した。
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