前二年度に実施した進化実験(緑膿菌PAと黄色ブドウ球菌SAを使用)の結果、SAの共存によってPA集団の進化軌道が変化することが明らかとなっていたが、本年度はこの進化軌道の変化をより詳細に評価した。その結果、SAが共存する系では培養初期において有意にPA集団の多様度(Richness)が低下するが、これは特定のPA進化株(Sm株)の出現および優占化が、共存するSAによって促進されることに起因することが明らかとなった。このように、PAの進化動態は共存するSAとの相互作用によって変化することが実験的に示され、病原菌の進化過程、それも短いタイムスケールでの進化過程に種間相互作用が重要な役割を果たすことが示唆された。一方、様々なPA進化株について、より詳細な生理学的解析をおこない、運動性変化やバイオフィルム形成能の変化を検出した。同時に、SAの進化株についても対象を広げて生理学的解析をおこない、生育能やコロニー形態などを評価した。これらの結果、SA進化株の中には生育パターンが変化しているものがみられ、PAの進化動態変化に対応してSAの進化動態も変化していることが示唆された。また、Massey大学(ニュージーランド)において在外研究をおこない、これまでに得られたデータに基づく数理モデル解析を共同で実施した。ゲーム理論をベースとした数理モデルの構築をおこない、二種間の生態―進化フィードバック関係が成立するための相互作用パターンを模索した。
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