本年度は、博士論文の執筆に向けて、まず既存論文を見直し、研究枠組みと理論についての整理を行った。この作業は6月を目途に終え、博士論文の前半部分の執筆を行った。 また、これまでの研究成果について、積極的に発表を行った。まず6月には、産業学会において、地理学とは少し異なる観点から発表を行い、経営学者の方々からも意見を頂いた。さらに8月には、オックスフォード大学で開催された世界経済地理学会で、研究課題に関する発表を行った。9月にも、日本地理学会秋季学術大会において、比較的長い時間の発表を実施した。 上記の発表の準備等と並行して、博士論文の執筆を進めてきた。そのうえで、11月に中国上海市・南通市でのフィールドワークを実施し、不足していた情報を補った。その後、これまでの内容を整理し、博士論文を提出した。 博士論文でまとめた研究結果について、まず、企業のコアとなる技術の深耕に関しては、技術流出が大きな懸念材料であり、知財制度の整備されている日本国内への集中が大きく変わることは、現状では考えがたいものであった。しかしながら、事業のグローバル化を進める際に、研究開発機能を海外にどの程度シフトする必要であるのかという点は、多くの企業にとって検討すべき課題であった。事例研究から得られた知見より、この課題に臨むにあたっては、事業ごとの適切な組織や立地を判断する全社的な組織を設けること、比較的長い期間,研究開発機能を担ってきた他企業の拠点の変化のプロセスから学習すること、既に現地の制度の中で事業活動を行っている他事業の既存拠点を資源として活用することが有用であると指摘した。 博士論文は審査に合格し、3月に学位を授与された。なお、提出した博士論文は、東京大学総合文化研究科の一高記念賞を受賞した。
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