研究概要 |
ベトナム語指示詞についての実験を行う前段階として、日本語母語話者34名を対象とした実験を行った。2人組の対話に現れる指示詞の傾向にっいて調査するため、1人がモデル写真を見ながら指示を出し、もう1人がレゴブロックを組み立てるという課題を実施した。その結果、指示対象が話し手に近いか聞き手に近いかは、指示カテゴリ(コ系あるいはソ系)の分布に影響を与えたが、話し手と聞き手の座り方(横並びか対面か)とは連関が見られなかった。しかし、この結果は椅子や机の配置などに起因する可能性がある。改善点をまとめ、9月に『東京言語学論集34号』に中間報告(共著)を投稿した。 実験と並行して、ベトナム語及びその他の言語における指示詞や文末詞・感動詞についての先行研究リストを増補改訂しつつ、戯曲をデータとして用いたベトナム語指示詞と同形の文末詞・感動詞の記述を進め、その成果を発表した。9月にニューデリーで行われた国際語用論学会では、指示詞と同形の感動詞nay, kia, ay, aayの用法についてポスター発表を行った。指示詞と感動詞は聞き手の注意を喚起するという共通点があるが、指示詞は聞き手の注意を指示対象に向け、感動詞は命題に対する話し手の期待や思惑に向けるという違いがある。また、同様の現象は日本語や韓国語においても観察され、指示詞と感動詞が同形であることは偶然の一致とは考え難いことを主張した。11月には、香港言語学会において、指示詞と同形の文末詞aay, nay, aay, ay, kiaの用法について口頭発表した。これらは、情報の多寡・妥当性・対比・焦点など、話し手の事態の認識の仕方に基づいて使い分けられていることを示した。 本年度はベトナム本国におけるベトナム語の調査に多くの時間を割いたが、在日ベトナム系住民の集住する地域の日本語教室やプレスクールにおいての参与観察も継続して行っている。
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