報告者の研究目的は高度成長期フランスにおける電力エネルギー源の選択の歴史的な変容を捕捉することにある。現在のフランスは総発電量の8割を賄う原子力大国として知られているが、原子力が主要な発電エネルギー源となったのは70年代中葉以降であり、戦後復興期からオイルショックに至るまでの経済発展著しい期間においては火力および水力が電力生産を担った。報告者は当該期間においてフランス政府は水力・石炭火力・石油火力の三択をいかにベスト・ミックスとして捕捉していたのかについて、原子力の開発状況も視野に入れながら検証することを試みた。とりわけ2014年4月から2014年8月まではパリに滞在して国立公文書館(ピエール・フィット市)にてフィールドワークを行い、博士論文執筆に必要な史料を収集した。当該年度はとりわけフランスにおいてエネルギー開発計画を数年毎に策定した計画庁エネルギー委員会の史料の分析に時間を費やした。戦後の物資欠乏期においては石炭節約が喫緊の課題であったために水力推進策が採られる一方、物資欠乏から脱した50年代初頭には水力よりも利益率の高い火力へと傾斜されたことはすでに先行研究によって指摘されてきた。しかしながら史料を精査することで、50年代初頭においてエネルギー委員会が火力推進策を採用したことは事実であるとしても非販売用の低品質石炭を用いることで物資欠乏期と同様に石炭使用の合理化が図られたこと、50年代前半の石炭市場緩和時においては石炭業に対する配慮のために石油火力の普及に歯止めがかけられたこと、好況のため西欧全土で石炭不足に陥った50年代半ばには再び水力の推進が図られたこと、などが明らかになった。
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