研究概要 |
本研究課題は, ガス惑星の特徴である帯状構造の時空間変動を飛翔体データから定量的に解明することを目的としている. 初年度は, カッシーニ探査機の撮像データ(メタン吸収帯波長 : 890nm)を用いた雲層上部構造の推定手法の確立と木星雲粒子の形状に関する評価を行った. 1. メタン吸収帯データを用いた雲層上部構造の推定 ミー散乱理論を雲粒子に適用し放射伝達計算を行う事により, 雲粒子の屈折率n_rと粒径r, そして上部雲の雲頂高度の最適解を求めた. その結果, 高屈折率(n_r=1.9)物質からなる粒径の小さい雲粒子(r=0.3μm)が上部雲を形成し, 雲頂高度が約200mbarである場合, 最もデータを再現できることが分かった. 得られた屈折率は, これまでの青波長(455nm)や近赤外波長(750nm)の解析結果と同様に, 表層雲の候補であるアンモニア氷の屈折率(n_r=1.42)に比べて著しく高い値であり, アンモニア氷が分光観測によって見つかっていないという先行研究を支持する結果である. 2. 雲粒子の形状に関する評価 カッシーニデータから得られたミー散乱位相関数と非球形粒子の散乱位相関数を比較することで, 球形粒子を仮定して得られたこれまでの結果のうち, どこまでがロバストな結果であるかを評価した. その結果, アンモニア氷に近い屈折率(n_r=1.45)をもつ回転楕円体の散乱位相関数は, 有効半径や長軸短軸比に関係なく, カッシーニデータから得られたミー散乱位相関数と比べて後方散乱が弱く, 観測データの再現は不可能であることが分かった. 一方, 高屈折率(n_r=1.85)である回転楕円体の散乱位相関数の中には, 散乱の強さ, 位相関数の形状ともに, カッシーニデータから得られたミー散乱位相関数に類似するものが得られた. 従って, 非球形粒子にまで目を向けた場合でも, 表層の雲は純粋なアンモニア氷からなるわけではない, と言えるだろう.
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今後の研究の推進方策 |
これまで木星において, 青波長, 近赤外波長, メタン吸収帯波長と解析を進めてきたので, メタン吸収帯波長と同様の高度を調べることのできる紫外光のデータ解析に着手する. ここまでに培った解析手法を, 表層雲の顕著な特徴である帯(Zone)と縞(Belt)のデータに適用し, 両者の雲層構造の違いについて議論を深める.
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