研究課題/領域番号 |
13J09370
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研究機関 | 独立行政法人宇宙航空研究開発機構 |
研究代表者 |
佐藤 隆雄 独立行政法人宇宙航空研究開発機構, 宇宙科学研究所, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 木星 / 雲層構造 / 帯縞構造 / エアロゾル / 放射伝達 / 散乱位相関数 / カッシーニ探査機 / 他惑星への手法の適用 |
研究実績の概要 |
本研究課題は,ガス惑星の特徴である帯状構造の時空間変動を飛翔体データから定量的に解明することを目的としている.本年度は,カッシーニ探査機の撮像データを用いて,木星雲粒子の形状に関する評価と惑星大気データを解析するための放射伝達コードの開発,またこれまでに培った手法の他惑星(金星)への適用,を行った. 1.雲粒子の形状に関する評価 カッシーニデータから得られたミー散乱位相関数に形状が比較的似ている非球形粒子の散乱位相関数を用いて,球形粒子を仮定して得られたこれまでの結果のうち,どこまでがロバストな結果であるかを評価した.その結果,アンモニア氷に近い屈折率(nr=1.45)をもつ回転楕円体の散乱位相関数は,有効半径や長軸短軸比に関係なく,カッシーニデータから得られたミー散乱位相関数と比べて後方散乱が弱く,観測データの再現は不可能であった.一方,高屈折率(nr=1.85)である回転楕円体の散乱位相関数の中には,散乱の強さ,位相関数の形状ともに,カッシーニデータから得られたミー散乱位相関数に類似するものが得られた.従って,非球形粒子にまで目を向けた場合でも,表層の雲は純粋なアンモニア氷からなるわけではない,と言えるだろう. 2.惑星大気データを解析するための放射伝達計算コードの開発 既に開発済みの光強度を計算するコードの計算効率の向上に加え,エアロゾルの物性に対する感度がより高い偏光度をも計算可能とするコード開発を行った.多重散乱を取り扱う方法として,Adding-doubling法を用いた.既存の類似コードによって光強度や偏光度が分かっている,大気構造モデルを複数用意し,開発したコードの精度検証を行った.その結果,少なくとも0.1%程度の精度で計算値が一致することが分かった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
以下に挙げる3点の理由から,おおむね順調に進展している,と判断した. (1)ガス惑星を代表する木星の雲粒子として,ミー散乱を用いた球形粒子に加え,回転楕円体を想定した非球形粒子をも考慮し,カッシーニ探査機データを用いた実データ解析に向けた評価に一定の目途をたてることができた. (2)既に開発済みの光強度を算出する放射伝達コードの計算効率向上に加え,光強度よりもエアロゾルの物性に感度がある偏光度を計算する放射伝達コードの開発に道筋をたてることができた.コード自体は,様々な惑星大気のリモートセンシングデータの解析に広く利用できる. (3)これまでに培ってきた手法を,すばる望遠鏡で取得した中間赤外撮像データに適用し,金星雲頂構造について調べた.その成果をまとめた論文が国際学術誌に掲載された.
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今後の研究の推進方策 |
前年度までは,実観測データの解析に必要不可欠となるエアロゾルの形状に対する評価や放射伝達コードの開発を進めてきた.今後は,木星・土星において,紫外から近赤外波長にかけて幅広い太陽位相角からの多波長撮像観測を実施したカッシーニ探査機データを用いて雲層構造の精密決定を行う.これにより,ガス惑星の表層雲の顕著な特徴である帯(Zone)と縞(Belt)の違いが,どういった大気物理量によって説明できるのか議論していく予定である.
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