研究概要 |
【研究内容】本研究では、生後12ヶ月前後の乳児が母親との20分間の相互作用中にいかなる情動表出(笑う、泣く等)を行うのか、そして母親がどのような形式で調律的応答(乳児のネガティブな心的状態をメタ化するようなフィードバック的応答)を行うのかを検証するべく観察データを収集した。更にその調律的応答の生起頻度が、母親自身のアタッチメントスタイル、わが子についての表象、共通乳児刺激を用いて測定された特性的マインドマインディッドネス(乳児への心的帰属傾向)といった母親の主観的側面と如何なる関連性を示すのか検証するべく、母親への質問紙およびインタビューデータの分析を進めた。結果として、アタッチメントスタイルが安定傾向の母親は、不安定傾向の母親よりも、わが子についてのイメージを容易に産出することができ、また乳児のネガティブな情動表出に対して感情面よりも欲求的側面についての心的帰属をしやすいことが示された。 【本研究の意義と重要性】これまで子どもの共感性発達を扱った研究(e.g. Kestenbaum et al., 1989 ; Kochanska et al., 1999 ; Liew et al., 2003 ; Valiente et al.,2004)では、安定的でオープンな母子関係性のもとで子どもが共感性を十全に発達させるという大まかな想定がなされてきたが、具体的に母親が行う何がそういった子どもの社会情緒的発達を促進するのかは明らかにされてこなかった。この点に関して、本研究を含む一連の縦断研究では、母親が行う調律的応答こそが子どもの共感性発達の促進因となるとの仮説の下、母子相互作用を客観的に判断可能な行動的指標(表情や発声発話)を用いて詳細に分析することを通じて、これまでブラックボックスのままであった早期母子関係における子どもの共感性発達プロセスを、世界に先駆けて綿密に検証することができると考えられる。
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