研究課題
本研究の目的は、血液悪性腫瘍の中でも骨髄性腫瘍と呼ばれる一群骨髄異形成症候群の発症においてポリコーム群タンパクの酵素活性を持つユニットであるEZH2の役割を詳細に解明する事である。このタンパクは悪性リンパ腫や固形がんなどの他の腫瘍では発現上昇や活性型変異が関係するのに対して骨髄性腫瘍においては機能欠失型変異が認められるという特異な状況である。マウスBMTモデルなど血液学の基本的な技術知識の習得と更には昨今世界中で盛んに行われているCRISPR/Casを用いた遺伝子改変マウスの導入など新規の実験系にも取り組んで実験をした。In vitroにおいてはEZH2の欠失型変異は主に細胞の分化に影響を及ぼし細胞の運命決定に貢献していることが示唆された。In vivoではEZH2C末端欠失型の変異導入細胞を骨髄移植されたマウスにおいては実に10か月以上の潜伏期を経て骨髄異形成症候群や急性骨髄性白血病などの骨髄性腫瘍の病態を再現することを観察した。更にこれらの発症マウスは新たなマウスに継代できることが分かり、腫瘍幹細胞の存在が示唆された。この発症した血液細胞のRNAから遺伝子発現マイクロアレイを用いた網羅的な解析を行った。それによりこれまで如何なる先行論文でも指摘されていない新規の標的遺伝子を複数示唆された。それらの中でも正常異常問わず複数の系に共通の幹細胞遺伝子であるABCトランスポーターがEZH2に直接制御されていた。この分子は幹細胞性のみならず薬剤耐性や、脂質尿酸代謝など多彩な生理活性を持つ。現在臨床検体の検索を進めているが、その中で予後との関係も示せる見込みである。報告者らはこの様な欠失型EZH2変異がよりヒトの疾患に近い病態を反映する可能性を考えており、ヒトのMDSの病態理解とポリコームの機能として新規の役割を提唱して世界に役立てる局面を想定して活動している。論文投稿を準備中である。
1: 当初の計画以上に進展している
骨髄移植による実験は大変な根気を要する難所であった。発症までの極めて長い時間と、レトロウィルスを用いた遺伝子導入の効率の維持は想像した以上に難易度が高かった。研究室はこれらの系に精通しており、複数のメンバーが同様の系を用いて実験を進めていたため具体的な実験方法や材料をやりとりできる理想的な環境であった。そのことも手伝って移植実験を成功させることができた。通常は白血病モデルは数か月程度が発症までの期間であるが当モデルは採血などきめ細かなフォローを1年前後行う必要がある。その意味で難易度の高い実験であった。再移植して発症を再現できることは当初期待したものの困難と思われていたものである。その理由は緩徐な進行と骨髄内の一部しか占めないような一見弱い形質であったが、良い意味で期待に反して継代するたびに確実性を増して発症に結びつく遺伝子変異を確立できた。これは緩徐な進行で治療抵抗性である骨髄異形成症候群に特徴的であり、人間の疾患をかなり再現できているものと自負している。今後の展開も更に詳細なポリコーム群タンパクの異常を引き起こすメカニズムを示唆しており大いに希望を持っている。(後述)
患者検体へのアプローチを続ける。現在順天堂大学血液内科原田准教授および名古屋大学血液内科のグループとともに臨床検体において現在のモデルに該当する現象がどの程度確認できるかを詳細に検討中である。また、このABCトランスポーターが腫瘍の発症にどれほど寄与するかを更に確認する目的で、我々が新規に開発した抗体を用いた細胞分離で実験を行っているのでそれを続ける一方で遺伝子改変マウスを用いた実験を進行中である。現在はマウスの作成過程であるのでこれにはもう少し時間を要する。腫瘍幹細胞の性質を詳細に調べるために、長い発症準備期間のうちに異常遺伝子を持った細胞がマウスの骨髄中で如何なる動きをするか、具体的には幹細胞を育む特別な場所、ニッチにおいて正常の幹細胞と異常な腫瘍幹細胞は如何なる動きをするのか生体イメージングを用いて解析を進める。これは大阪大学石井教授のグループと共同で実験をする。その間に論文の投稿を準備しつつ新たに得られる結果を組み込んでいく。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 謝辞記載あり 4件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (7件)
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