本研究は、20世紀に入って朝鮮半島部に出現した海女文化の生成メカニズムを、半島部海女の主要な採取物であるバフンウニという「モノ」に着目して解明しようとするものである。 2013年度の日本各地における現地調査をふまえ、2014年度は、主に山口県(長門市・下関市・山口市)で参与観察や聞き取り調査、資料収集に従事した。その調査対象地を出身とする人びとがウニ漁に従事する島根県隠岐郡でも現地調査を行い、バフンウニをめぐって繰り広げられる山口の人びとの実践プロセスの詳細な把握に努めた。とりわけバフンウニの採取の諸相に焦点を置き、海女・海士の生活や村びと同士の社会関係などにバフンウニの採取がどのような意味を持ち、それがどのように変化してきたかを多角的に把握しようと努めつつ、加工・販売・消費の諸局面でのバフンウニをめぐる人びとの実践のあり方との相互関連性にも着眼して調査を進めた。一連の現地調査における大きな収穫は、戦後のウニ漁場の拡大をめぐって諸局面で生じてきた大きな変化を明らかにしうるデータを得たことにある。これは、バフンウニというモノが生成する文化のダイナミズムに迫る上で重要な意義を持つ。 これらの調査の傍ら、海女の歴史やアジアの海域史に関する文献研究を進め、海女・海士による様々なモノの採取の歴史に現在のバフンウニの採取実践がどのように位置づけられるかという観点から、それらの知見を整理した。今後もこの作業を継続し、そこに2014年度までの現地調査で得られたデータを接合していくことで、モノの観点から日韓海女の現在に至るまでの歴史を巨視的に描き出し、海を中心とした新たな日韓交流の歴史像を提示したいと考えている。
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