昨年度までの解析において、NP95の欠損により産生される新生ニューロンの数、及び成体神経幹細胞から分化するニューロンの割合が少なくなることを明らかとしていた。そこで本年度は、中枢神経系において神経幹細胞特異的に発現しているNP95の成体ニューロン新生における役割の解析として、NP95を欠損した成体神経幹・前駆細胞より分化した新生ニューロンの成熟度を調べた。その結果、NP95欠損マウスにおける新生ニューロンは樹状突起の長さやその複雑性が損なわれており、新生ニーロンの成熟が阻害されていることが明らかになった。このことは、神経幹・前駆細胞の段階でのNP95の欠損により生じたエピジェネティックな変化、もしくは他の何らかの変化が分化後のニューロンの成熟においても影響を与えることを示唆する結果であり、成体ニューロン新生におけるNP95の役割を解明するうえで非常に重要な結果であったと考える。 また、NP95の欠損が引き起こす成体ニューロン新生抑制のメカニズムを解明するため、成体の脳より単離、培養した成体神経幹細胞を用いて解析を行ったところ、NP95欠損マウスの海馬歯状回で発現上昇がみられた炎症性サイトカインTumor Necrosis Factor-α (TNF-α) がその濃度依存的に細胞増殖を抑制することが確認された。加えて、NP95欠損マウスより単離した神経幹細胞においてもTNF-αの発現上昇が観察された。これらの結果により、NP95は成体神経幹細胞においてTNF-αの発現を直接的に制御していることが示唆された。このことは、NP95の成体ニューロン新生における役割の解明において大変意義深いものであったと考える。
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