本研究は、微小管切断酵素であるkatanin p60 (kp60)と、微小管安定化因子であり神経変性疾患の原因蛋白質の一つ、タウの競合関係を解明することにより、神経細胞死から認知症の発症メカニズムの理解と治療薬の創薬基盤を築くことを目的とした。本年度は、kp60とタウの相互作用解析を進めるとともに、引き続きkp60の詳細な機能解析を行った。 1. タウ蛋白質の微小管結合領域のR1~R4ペプチドとkp60の相互作用実験に着手した。特に、R2およびR3がkp60の微小管切断を阻害する結果が示唆された。この結果は、タウの細胞内機能や異常リン酸化タウによる神経細胞死等の医学生理学上の重要な機能を解明するための重要な鍵となると考えられる。 2. これまでに同定したkp60 N末端ドメイン(NTD)結合ペプチドとkp60 NTD間の結合が弱く、明確な解離定数を決定することができなかった。そこで、さらに強くkp60 NTDに結合するペプチドを設計し、両者の結合と微小管切断活性の阻害について検討を行った。 3. カイコ-バキュロウイルス発現系システムを利用し、より安定な微小管切断活性を有したkp60を得ることができた。これにより、大腸菌発現系により調製したkp60を用いて予備実験を行った上で、精度の高い超遠心実験およびATPase活性測定を行うことができた。kp60とチューブリンC-tailの相互作用実験では、複数の実験系すべてから、ベータチューブリンC-tailペプチドのみがkp60の微小管切断を阻害し、kp60の微小管切断活性部位と直接相互作用する結果が示された。 4. 引き続き神経変性疾患の原因蛋白質の凝集性について研究を行い、これに関連した成果論文を国際学会誌へ発表した。1つは現在投稿中である。
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