研究課題
玄米が有する糖尿病予防効果が注目されてきたが、詳細な分子メカニズムは明らかでなかった。私達はこれまでに、米ぬかに含まれる有効成分_Y-オリザノール(Orz)が高脂肪食(HFD)に対する嗜好性を低下させることにより、抗糖尿病効果を発揮することを明らかにしてきた。本年度はマウス及び培養細胞を用いて、Orzが糖代謝を改善する分子メカニズムを検討し、以下の新しい知見を得た。1 Orzは膵島に直接作用し、cAMP/PKA経路を介してグルコース応答性インスリン分泌(GSIS)を促進するC57BL/6Jマウスを用いた糖負荷試験において、Orz単回投与が膵臓に直接的に作用して糖負荷後のインスリン分泌を促進させ、血糖値の上昇を顕著に抑制することを見出した。膵β細胞株MlN6細胞、単離膵島を用いた検討により、OrzがcAMP/PKA経路を介してGSISを促進することが初めて明らかになった。2 Orzは膵β細胞において小胞体(ER)ストレスを制しアポトーシスを制するMIN6細胞にERストレス惹起剤であるツニカマイシンとOrzを共添加したところ、ERストレス誘導性アポトーシスが有意に抑制された。また、ERストレスの亢進に伴って低下していたGSISもOrzの共添加により有意に改善した。マウス単離膵島においてもHFD給餌により亢進したERストレス及びアポトーシス関連遺伝子群の発現がOrz投与により明らかに抑制された。3 Orzは膵α細胞からのグルカゴン分泌を抑制するHFDの給餌により上昇していたマウスの血中グルカゴン濃度はOrz投与により有意に低下した。野生型マウス由来単離膵島に対するOrz添加においてもグルカゴン分泌が抑制された。本研究により、Orzが膵臓に対する直接作用と食行動を改善させる2つの独立した作用よって糖尿病の予防・治療に寄与する天然食品由来成分であることが初めて明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
_Y-オリザノールが糖代謝を改善する分子メカニズムについては、膵島における直接的な作用を明らかにし、英文論文にまとめ、現在投稿中である。高脂肪食の摂取による視床下部における小胞体ストレス亢進が脳内報酬系に及ぼす影響に関しては、解析系を確立している。
_Y-オリザノールをナノ粒子化することによる効力の違いについて、肥満・糖尿病モデル動物を用いて検討を進める。また、高脂肪食摂取による視床下部の小胞体ストレス亢進が脳内報酬系に及ぼす影響を検討するため、報酬系を構成する部位のうち、依存に関わることが報告されている腹側被蓋野、線条体、側坐核の採取と遺伝子レベル、タンパク質レベルでの解析系を確立している。この解析系を活用して、高脂肪食や_Y-オリザノール摂取時、視床下部における小胞体ストレス状態が変化した時の脳内報酬系の機能的変化とその分子メカニズムを解析する。
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