研究概要 |
腐朽材に生息する木材腐朽菌類の未知系統, 特に, 子実体を形成せず肉眼では確認できない未知系統の検出・分離培養を目的とし, 「子実体の視認」, 腐朽材からの「分離培養」, 「環境DNA解析」を併用した調査を行った. 筑波山のアカマツ林(40×40m)にて, 木材腐朽性担子菌類であるアカキクラゲ類を対象とし, 2013年5月~2014年4月の期間毎月子実体の採集を行い, 形態観察による種同定を行った. 同時にアカマツ腐朽枝を3つの腐朽段階に分けて各4本ずつ採集した. 腐朽枝は粉砕後, 湿式振とうふるい機にかけて大きさ100-200μmの粒子を回収した. 粒子は洗浄後, 麦芽寒天培地入りのマイクロプレート(48ウェル×12枚)に1ウェルあたり2粒子ずつ分注して培養し, 出現したアカキクラゲ様コロニーを分離した. また, 腐朽材粒子からDNAを抽出し, 28SrRNA遺伝子領域を増幅後, DNAクローニングを経て配列を決定した, 子実体および培養菌糸からもDNA抽出を行い, rRNA遺伝子領域の塩基配列を決定した. 結果, 子実体発生では確認できなかった8系統が環境DNA解析と分離培養によって見出された. 子実体発生では確認できなかった未知系統が検出できたことから, 本研究の目的「子実体を形成せず肉眼では確認できない未知系統の検出」を達成できたといえる. また, 環境DNA解析では検出されなかった3系統の菌株を分離培養にて得ることができた. これらの菌株を用いてアカキクラゲ綱内における詳細な系統的位置を推定したところ, 分岐の深い独立した系統が含まれていることが分かった. 環境DNA解析は環境中の真菌類を最も網羅的に検出できる手段であると考えられているが, 今回の調査では環境DNA解析で検出できなかった未知系統が分離培養にて得られた. さらにこの系統がアカキクラゲ類の進化を考えるうえで重要視すべき系統であったことは当初の予想を上回る成果である. 結論として, 分離培養では環境DNA解析で検出できない系統, しかも分岐の深い重要な系統が得られることがあり, さらに菌株からゲノム配列や生理情報を追取得できることから, 優れた多様性探索手法として評価できる.
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