研究実績の概要 |
今年度はJ. S. バッハ(1685-1750)と対位法を二つの軸として、18世紀ドイツの音楽文化の一端を明らかにした。研究にあたっては主に18世紀ドイツで刊行された音楽批評、音楽理論書を読解し、日本で入手困難な文献にかんしては7月にドイツ、イギリスで資料調査をおこなった。 18世紀前半については、ハイニヒェン『作曲における通奏低音』(1728)を、ベルンハルト『増補作曲理論』(ca.1657)や18世紀初頭に出版されたガスパリーニ、サン=ランベールの通奏低音理論書と比較し、不協和音を正当化する際の根拠が伝統的な音楽的修辞フィグーラから趣味概念に移行しつつあったことを示した。次にマッテゾン『完全なる楽長』(1739)で用いられたSymphoniurgie概念(旋律の重なり合いを意味する)が対位法や旋律論、和声概念とどのような関係にあるのか、当時の音楽辞典の定義にてらして検討した。 18世紀後半については、マールプルクの「イタリア人の趣味にかんする注」(1749、『シュプレー川のほとりの批判的音楽家』所収)、J. S. バッハ《フーガの技法》(1752)序文、『フーガ論』(1753, 1754)に注目した。そしてこれらの中でフーガがドイツ人音楽家と密接に結びつけられた一方で、同時に時代や地域を超越した普遍的なものとして語られた背景を、イタリア趣味をめぐる当時の論争から読み解いた。また18世紀後半のバッハ受容と対位法観の関係を検討するためにはキルンベルガー『純正作曲の技法』、フォルケル『普遍音楽史』、ネーゲリ『バッハ論』も重要な文献であるため、これらの読解にも取り組んだ。 本研究で得られた成果の大部分は、国際学会での報告や学会誌に投稿した論文を通じて発表することができた。今後は文献資料のみならず当時の演奏や楽譜出版の状況も視野に入れてさらに研究を進めていきたい。
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